身近なものからものがたりを探す、歩く、かたる、活かす  ―近代化遺産と観光とを結びつける、北九州地域のいくつかの試み―

市原猛志北九州市門司麦酒煉瓦館館長、九州大学百年史編集室助教

2015.11.04福岡県

出版と広報~書籍がつなげる研究と観光~

筆者が今まで刊行した近代化遺産に関連する書籍
筆者が今まで刊行した近代化遺産に関連する書籍

 もっとも、集めた基礎情報があってもこれが多くの方々に知れ渡らないと、ただの宝の持ち腐れとなる。それを補う活動のひとつが出版である。2006年から弦書房で刊行している近代化遺産シリーズは、福岡県四地域と熊本県をカバーし、従来各県教育委員会担当者と研究者のみが把握していたまちの財産を表に出す試みとして、書籍は現在でも地道に版を重ねている。

 また、集められた情報を基にしたガイドツアーも、主催共催、資料提供含めかなりの回数に及ぶ。当初解体を予定していた建物も、ガイドを通じて見た目以上の価値のもつ大切さを訴え続けることにより、観光地となり、保存につながった事例もある。価値を広く知らしめることは、それそのものを活用するための重要な素地と言えよう。

価値を伝え遺すための保存に関わる取り組み

  しかしながら、このような取り組みを踏まえてもなお、相続問題や天災、または法人における方針転換などの要因で解体撤去される事例がある。筆者が理事を務めるNPO法人北九州COSMOSクラブでは、取り壊しの危機にある近代建築を実測調査し、図面を作成することによって建物情報を記録する保存活動を行ってきた。このことによって、解体撤去に際してもなお地域にその価値を受け継ぐことを目指している。

北九州COSMOSクラブによる実測調査(旧小倉警察署庁舎・北九州市小倉北区)
北九州COSMOSクラブによる実測調査(旧小倉警察署庁舎・北九州市小倉北区)

三宜楼(北九州市門司区)
三宜楼(北九州市門司区)

 これまで北九州市内において10棟以上の建物の図面を作成し記録してきたが、中には門司港の旧料亭「三宜楼(さんきろう)」や旧小倉警察署庁舎のように調査後建物の活用が決まり、図面がそのまま改修に際しての基礎的な資料となったものもあった。

 とりわけ三宜楼の保存に当たっては、地元団体と協力し、建物の一般公開と募金活動、シンポジウムの共催などの取り組みを行うことによって、1900万円の寄附金を集め、土地の買い取りおよび北九州市への寄贈に結びつけることができた。このように住民や企業の寄附行為によって保存が出来た建物に関しては、改修・活用後も市民の関心が高く、今も日中はボランティアガイドによる説明が行われている。

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