身近なものからものがたりを探す、歩く、かたる、活かす  ―近代化遺産と観光とを結びつける、北九州地域のいくつかの試み―

市原猛志北九州市門司麦酒煉瓦館館長、九州大学百年史編集室助教

2015.11.04福岡県

近代化遺産に関する見方の変化、今までの文化財との違い

東田第一高炉(北九州市指定史跡)
東田第一高炉(北九州市指定史跡)

 2015年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」の各種構成資産に代表される近代化遺産は、幕末開国期以降に作られた建築・土木・各種機械類などを総称する言葉として、近年広く用いられるようになってきた。

 これらの遺産の大きな特徴として、それまでの文化財に見られる社寺仏閣など当初の目的のまま使用され続けるもののみならず、観光・商業目的などに施設を転用する例の多いことが挙げられる。何らかの形で活用を続けていくことによって、各地方自治体にとっては財政負担が比較少なく集客の見込める、新たな観光資源として近年注目を集めている。

 筆者はこれまでに北九州地区を中心に近代化遺産に関連する活動を15年近く行ってきたが、これらは大きく分けると(1)基礎調査、(2)論文や出版活動を通じた価値の広報、(3)記録保存と活用に向けた保存活動、(4)近代化遺産に関するガイド等企画の実行とガイド育成、などに区分される。本稿ではこれら活動について幅広く紹介することで、今後遺産の活用を検討する自治体へのエールとなることを期待する。

基礎調査~まちのたからものを探す~

 「うちのまちには何もない」という言葉をよく耳にする。自分のまちにはどんな資源が眠っているのか、まずは探してみないことには、守ることも活かすこともできない。私の活動の基本はまちあるきから始めることにある。

 近代化遺産といっても、その全てが見た目のよい、観光資源としてわかりやすい価値を持っているものとは限らない。たとえば八幡にある製鐵所の高炉は、かっこよくはあっても誰しもが美しいと言い切れるものではないだろう。
 しかしその背景には官営製鐵所の誘致という日本の近代を代表する物語を多く含む。このような大きなものではなくても、たとえば町の工場。日本の技術の粋を集めたレールの加工技術がここで稼働しているとしたら、それはきっと魅力的なものになって訪れる方々に訴えかけてくる。

九州鉄道機器製造(北九州市門司区)で加工された新幹線用ポイント設備
九州鉄道機器製造(北九州市門司区)で加工された新幹線用ポイント設備

 このような宝物を探すためには、とにかく足で稼ぐほかはない。筆者は今まで北九州市域で約450件、ほかにも福岡県内の福岡地域、筑後地域、そして筑豊地域の田川市でもそれぞれ基礎調査を行ってきたが、これらは後の出版や観光活動、なによりもまちづくりの起爆剤として必須不可欠な情報となっている。

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