代替現実ゲーム「Ingress」で魅力的なまちづくり プレーヤーも、観光客も、地域住民も喜ぶためには
Ingressでまちおこしする時の大事なポイント
スマートフォンばかり見ているようなイベントでは他の開催地との差別化は難しい。協力店舗との交流なども準備しゲームの外を上手く設計する必要がある
回転の速いIngressの世界において、筆者の少ない経験からすべてを語るわけにはいきませんが、本稿をここまで読み進めていただいた読者に「Ingressでまちおこしする時の大事なポイント」をまとめてお伝えしたいと思います。
<Ingressまちおこし7カ条>
(1) 地元エージェント/貢献者に嫌われない
(2) 基本は戦争
(3) 田舎は田舎で有利
(4) 彼らは不便や距離感が壊れている
(5) 観光課や住人すら知らない資源がある
(6) ゲーム以外を見る設計を
(7) 不審者扱い対策
まず、すべてを通して最も大切な点は(1)地元エージェント/貢献者に嫌われない、ということでしょう。「Ingressでまちおこし」を考えるのであれば、まずIngressを「レベル8」までプレイしてみてください。「COMM」という通信機能を使うと、地元のエージェントと会話することができます。青や緑のエージェントが、どのように、どんな時間帯に、時には実際に出会う(リアルキャプチャーといいます)ことで、この街がエージェントにとってどのような状態にあるのかを把握しましょう。もちろんIngressへの愛情が重要だと思いますが、卑怯なプレイをしないとか難しいことを考える余裕はないとしても、最低でも習慣化しておいた方が良いと思います。
次に(2)基本は戦争ということです。個々のエージェントさんは、とても礼儀正しく良い人ばかりですが、青や緑の両陣営は基本的に仲が悪いです。COMMで相手方のエージェントを中傷しているような人もよくいます。邪魔なエージェントがいれば、精神的に再起不能になるまでコテンパンに叩きのめします。ゲームだからこその不文律です。手を抜いても良いことはありません。昨今のゲームにはゲームオーバーがありませんが、Ingressをプレイし続けるには「強い精神力」が必要なのです。このような殺伐として荒涼としたフィールドに、あなたのまちは置かれているかもしれません。その殺伐としたバトルフィールドに、油を注ぐのか、牧場を作るのか、よく調査してから、感情的ではなく、戦略的に動きましょう。そして何事も独りでは不可能です。
さらに(3)田舎は田舎で有利ということです。希望を捨ててはいけません。2014年11月18日以降、全国のローソンが一斉にポータルになったことで、日本の各地でのポータル不足は一気に解決しましたが、それでもポータルが一切生えていないという土地であれば、それはそれで珍しいのです。ポータルを申請するチャンスがあり、ポータルが少なければ、邪魔されずに広域CFを張るチャンスがあるのですから。
「一般的な観光」は大都市からのアクセスが重要な要素になりますが、(4)彼らは不便や距離感が壊れているということを特性として把握しておきましょう。例えば普通の人にとって「駅から2キロ」は徒歩30分であり、バスやタクシーなどの乗り物に頼ってしまう距離でしょう。旅館であれば送迎バスぐらいは用意しないと来てくれないかもしれません。しかし、エージェント各位は、ポータルさえあれば2キロ程度は軽く歩いてしまいます。さらに気の利いたMISSIONSがあれば、案内や看板を配置しなくても自力で歩いてきてしまいます。これは大変なエコシステムです。
観光資源の開発というと、つい物産展のような食べ物や見学施設のような箱物開発を思い浮かべてしまうと思いますが、(5)観光課や住人すら知らない資源があるということを忘れてはいけません。ポータル申請を得意とするエージェントは、未知の発見に対して脚光を浴びせ、名前を付ける名人です。珍しい名前の道路標識や、薬局のマスコット、難解な現代アートに「メタルミョウガ」といった可愛らしい名前が付いたために、近隣のカフェが突然、有名ポータル付きの待ち合わせ場所になるということも大いにありえます。ネタが見つからないのであれば、博物館や地元大学、教育委員会、民俗学などの研究者に助けを求めてみてはいかがでしょうか。
さらにまちおこしやイベント開発をする上では、(6)ゲーム以外を見る設計を心掛けましょう。相模原市立博物館の場合は「博物」がテーマになりました。学芸員、神社、商店街などと上手く連携し、ポータルの源泉となったオブジェクトへの注目・解説や、店先にポータルが生えた店舗への脚光をあてることが重要です。Ingress内部で起こったことはIngressをプレイしない人には全く分かりません。MISSIONSは強力な機能ですが、実際に近くに行ってプレイしない限りはそのMISSIONSがどのような意味を持っているかは分かりません。人をそこに連れてくるためには、まずゲームをプレイしない人向けの情報が必要です。
最後に、(7)不審者扱い対策を十分に配慮しましょう。Ingressを知らない人にとって、Ingressのルールでも定められていることはありますが、深夜の徘徊者や、知らないクルマなどの侵入、寺院仏閣などの神聖な場所への立ち入り、「買わない客」の立ち寄りなどが問題になることもあるでしょう。多くの問題の根にあるものは「お互いの文化を知らない人間がそこにいること」ではないでしょうか。Ingressプレイヤーが説明して回ることもありますが、自治会や商店街が中心となって、お互いにとって安全に代替現実ゲームがプレイできるような環境づくりや、プレイしない人にとって理解できる情報の出し方は今後開発されていくべきと考えます。
興味深い事例としては、東京都東久留米市で、深夜のエージェント活動が多く「見回りの警察官と顔見知りになるほど」職務質問を受けてしまうのが悩みの種であったエージェントが、市の防災防犯課に相談し、一転、ゲームをしながら見回りをする防犯ボランティアになったという美談がありました。もともと東久留米市では小学生の登下校時間や学童クラブからの帰宅時間帯を中心に、犬の散歩をして不審者から子どもの安全を守る「わんわんパトロール隊員」の募集もあったことからこのような発展もあったものと想像しますが、従来の防犯ボランティア活動の中心であったお年寄りや、半強制の参加だけでなく、このように「ゲームをやるついでに」結果としてWin-Winになるような関係の作り方は非常に未来的な解決であると考えます。
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