代替現実ゲーム「Ingress」で魅力的なまちづくり プレーヤーも、観光客も、地域住民も喜ぶためには

白井暁彦神奈川工科大学情報学部情報メディア学科准教授

地方自治体におけるIngressの活用事例

 まだIngressをプレイしていない人々にとって、ここまでの話は一部のゲームオタクたちによる「まるで遠い、危険な話」に聞こえたかもしれません。しかしIngressを観光に使っている自治体も現れているので紹介します。

 Niantic Labs.はGoogleという世界的大企業の一角ではありますが、ユーザコミュニティの醸成に大変力を入れています。公式イベントは世界中で開催されており、リリース2年目の時点で281イベント、5万人の参加者が参加しています。日本国内では宮城県石巻市において、Niantic Labs.による復興支援イベントが行われています。震災による津波被害に気遣いながら、震災前の姿をポータルとして確認できるイベントで、小規模ではありますが、遠方から数多くのエージェントが訪れました。

 岩手県では「岩手県庁Ingress活用研究会」が組織されており、Ingressの地域振興への活用が県職員を中心に研究されています。Ingressのポータルはプレイヤー自身が申請し、Niantic Labs.が手作業で承認作業をすることで「ポータルが生える」状態になるのですが、プレイヤー人口の多さや都市における人の多さがポータルの数に比例していることは否めません。しかし、都市部以外にも大きなチャンスがあるのがIngressの面白いところです。

 岩手県の取り組みでは2014年11月9日に「ポータル探して盛岡街歩き」というイベントを開催しています。研究会が公開している資料によると「岩手県内にIngress関係のお客様を呼び込むために、まずは盛岡市内をIngressのプレイに快適な環境にすることが大事である」と考え、市内にポータルを大幅に増やすことを目的に、ポータル候補地の探索と申請を行う活動をしたということです。県内外から54人が歴史文化を訪ね歩く、まち歩き観光も兼ねた手作りのイベントが開催されました。Niantic Labs.はこの活動を評価し、全世界で過負荷のため滞っていたポータル承認処理を優先的に進める支援を行い、現在では多数のポータルが存在します。

 神奈川県横須賀市では横須賀市経済部商業観光課が事務局となり、アルファブロガーらと特設サイト「 Strategy Base for Ingress In Yokosuka」を開設、Ingress内のスタンプラリー的機能である「MISSIONS」機能を使った観光コースの紹介や、記念艦「三笠」、元旧陸・海軍の要塞として利用されていた無人島「猿島」への運賃を割引する「Ingress割」の実施をしています。

 なお、MISSIONSもプレイヤーが自由に作成することができ、クリアすることでゲーム上のバッジを入手することができます。素敵なデザインやテーマであればプレイヤーも引きつけられます。

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