代替現実ゲーム「Ingress」で魅力的なまちづくり プレーヤーも、観光客も、地域住民も喜ぶためには

白井暁彦神奈川工科大学情報学部情報メディア学科准教授

ゲームプレイヤーが観光資源を自分で発掘する

 実際に体を動かして発見し・出会うゲームであるIngressは、地方自治体に限らず、さまざまなユーザコミュニティが生まれています。SNSとしてはあまり有名とは言えないGoogle+コミュニティですが、Ingressに関してはメインストリームです。各市・各主要駅ごとに緑/青陣営のコミュニティが多数存在し、ハングアウト(HO)と呼ばれるGoogle提供のチャットソフトでもグループが乱立して、数え上げることも難しい状態です。

エージェントステータスに表示される実績メダル。今まで歩いた距離や、訪れたポータル数、広い陣地を張るなどの戦略・努力要素に加え、下段にはスタンプラリー的なMISSIONSの実績メダルが並ぶ。これらMISSIONS制作者が独自に作ったもので地域の特色がある。探訪のお土産としてMISSIONSをプレイしていくエージェントも
エージェントステータスに表示される実績メダル。今まで歩いた距離や、訪れたポータル数、広い陣地を張るなどの戦略・努力要素に加え、下段にはスタンプラリー的なMISSIONSの実績メダルが並ぶ。これらMISSIONS制作者が独自に作ったもので地域の特色がある。探訪のお土産としてMISSIONSをプレイしていくエージェントも

 Google MapsやStreet Viewを使っているだけでは気がつかない、Ingressをプレイする上での発見としては、「人々の気付き」がポータルの源泉になっている点です。地元の人でも気にしないような、ローカルビジネスの看板やマスコット、忘れ去られた銅像、祠や道祖神に脚光が当てられ、エージェントにとっての「重要地点」と化していきます。

 ゲームや遊びは元来、目先の利益や時間といった合理的な存在とは離れた場所に存在します。Ingressはゲームを成立させるルールの中で、そのような気付きや地道な活動に対して「実績メダル」を与えているに過ぎません。このような設計は「観光資源発掘のゲーミフィケーション(Gamification;ゲーム化)」と呼ぶことができるかもしれません。

 Ingressが開拓していく対象はゲーム内に留まりません。熱心なプレイヤーはIngressのオリジナルグッズを手芸や工芸で開発しています。Ingressの公式ロゴはGoogle社の登録商標ですが、ガイドラインに従い、利益目的でなければロゴの使用は認められています。ビーズアクセサリーやTシャツ、シールといったレベルは当然のこと、相模原市淵野辺・つるや呉服店による「イングレスベーゴマ」や、名古屋市・株式会社ナカムラ「まいあめ工房」による伝統的な組み飴技法をつかった「Ingress飴」など、アイディアや技術が光るオリジナルグッズが開発されています。どちらも商売度外視で公式イベント等において配布・頒布されています。商売度外視とはいえ、Ingressファンやイベントも毎月のように開催されていますので、他の図案での受注も含めて商機は大いに広がっていることでしょう。

イングレスベーゴマ
イングレスベーゴマ

Ingress飴
Ingress飴

 2次創作物の代表格・マンガ同人誌も頒布会では人気です。Ingressの世界観を扱うものではなく、『女子高生がイングレスどうでしょう~北海道僻地ポータルの旅~』(もみじ真魚・著)、『台北でイングレス!』(2C=がろあ・著)など、紀行ものやエージェントライフを描く作品が多く、Ingressそのものが持つ「米系SF」の殺伐とした世界観から離れ、マンガによる“意外な土地への遠征”を提案するアプローチは読んでいて楽しく、2次3次の展開も期待できるのではと感じます。

Ingressをテーマにしたマンガ同人誌Ingressをテーマにしたマンガ同人誌

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