代替現実ゲーム「Ingress」で魅力的なまちづくり プレーヤーも、観光客も、地域住民も喜ぶためには

白井暁彦神奈川工科大学情報学部情報メディア学科准教授

Ingressで博物に興味のない人を呼び込む

商店街でおばあちゃんにIngressを紹介する人懐っこいエージェント 写真協力 阿部章仁
商店街でおばあちゃんにIngressを紹介する人懐っこいエージェント 写真協力 阿部章仁

 筆者自身の活動としては、相模原市・厚木市を中心に「相模Ingress部」という、大学のIngressサークルを模した市民研究活動を相模原市立博物館と協働で行っています。

 もともとは相模原市による「さがみはらどこでも博物館」という、政令指定都市に移行し拡大した相模原市に散在する文化財やミュージアムを市民の主体的な活動でつないでいく、「フィールドミュージアム」構築事業がきっかけでした。しかし市の職員だけの活動では真に市民にアプローチした活動にはなりづらく、2013年に神奈川工科大学白井研究室と市立博物館が公募提案型市民協働、「スマ歩さがみはら」プロジェクトとして活動開始しました。

 当初はGoogle MapsやYouTubeを使い、民俗探訪会などの史跡探訪街歩きイベントのアーカイブや博物館のウェブサイトの整備などを行っていたのですが、頻繁に変わるGoogle+やYouTubeなどのサービスポリシーに振り回されつつ、また動画やデジタルコンテンツを制作する一方で、比較的時間がある高齢者のボランティア活動者に対し、若者・子ども・ファミリー世代には博物活動そのもののモチベーション寄与が低く、なかなか難しい面がありました。

 そんな中、2014年8月のIngressのiOS版のリリースの衝撃は大きく、「ゲームを使ったゲーミフィケーションでフィールドミュージアムの構築が行えないか?」という視点で発想の転換を行いました。

 情報メディア学科の学生や、博物館の学芸員とIngressをプレイしながら、市内の博物に関連がある(一方で、Ingress内ではまだポータルになっていない)史跡や情報をウェブサイトとSNSを使い実況中継し、ゲームと旧来の博物の両方を繋ぎながら取り込んでいく形で動的に構築していくスタイルです。

 具体的なターゲットとして、(1)博物に興味がない(2)さがみはらどこでも博物館の活動に興味がない(3)ゲームにしか興味がない、この3つのペルソナを設定し、この人物像を呼び込むために「相模原のIngressは盛り上がっているよ」というプロモーションを展開しました。

東京圏「PA01-ALPHA-12」の中央に相模原市がある。たったそれだけのことですが、陣取りゲームとしては重要な要素です
東京圏「PA01-ALPHA-12」の中央に相模原市がある。たったそれだけのことですが、陣取りゲームとしては重要な要素です

 まずは地道なポータル申請とともに、整備した博物館のブログの一角を使った綿密な市内の「ポータル候補」についてのレポートを行い、そのためのツール開発なども行いました。またSNSの活用としてはTwitterとFacebookを中心に、ブログと館内サイネージ、印刷物、イベントといったマルチメディア展開を数カ月間に渡り実施しています。

 実際に、世界でも特筆すべきポータル密度がある東京圏「PA01-ALPHA-12」の中央に相模原市は位置しており、広域のCF(Control Field;Ingressにおける陣取り、人口密度×面積で得点になる)を作成しやすいことをアピールすることで、スマートフォン関連、Ingress関連のブログメディアで取材されるようになりました。

 その後、2014年12月に東京で開催された5,000人級のイベント「Darsana」において、学生たちによる遠征・実況中継も実施し、Twitterアカウントは2カ月で13万件のPV(ページビュー)まで成長しました。「相模Ingress部」という学生ならではの部活動っぽいノリと、日々生えていくポータルをいち早く取材し、ゲームプレイヤーの視点で熱心に発信し続けることが、自治体主導にありがちな「硬さ」をやわらげ、課題である若者世代へのリーチにつながったものと分析しております。

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