足を止めさせるもの・デザイン・見せ方とは 「乙女の金沢」が伝えるまちとひとの魅力
もっといいデザインにするためには
姫だるまのフライヤーは地元のグラフィックデザイナー田中聡美さんが手掛けた
「乙女の金沢展」の姫だるまのフライヤーは、金沢在住のグラフィックデザイナー、田中聡美さんによるものだ。フライヤーをきっかけに、田中さんはその後コンペに参加し、北陸新幹線開業PRキャラクター「ひゃくまんさん」もデザインした。
観光関係のポスターなどは「それによって相当、その地域の印象が変わる」と岩本さんは話す。これまで観光関係者とデザイナーとの間で仕事をした経験のある岩本さんは、「どうしたらいいデザインができるか、もっと考えたほうがいい」と、次のような問題点を指摘する。
一つは、デザイナーが発注者の要求で修正するうちに、当初のデザインと変わってしまうこと。
岩本:この文字をもっと大きくなど次々と付け足して、最初はかわいかったものが、どんどんダサくなったことがありました。
そして大きな問題は、デザイナーと発注者がお互いの工程を理解していないためにすれ違うことだ。発注側の担当者がデザイナーとの間で話を進めたが、上司の反対で、デザイナーが修正しづらい段階になってから修正を依頼する。発注者が行政の場合、担当者は部長や首長からの指示を無視できないが、そのためにデザイナーは時間や労力を余計に費やすことになる。デザイナーは行政の組織や決裁の仕組みがわからないし、行政はデザイナーがどのような工程で仕上げるのかわからない。
これ以外にも、一括での委託により、デザインが印刷に付随したものとしか見られないなどの問題点がある。
この解決法について、岩本さんはいくつかの策を提示する。まずは、最初の段階でよく話し合うことだ。どの情報を入れるかはもちろん、目的やコンセプトも考える。この時点で担当者の上司とも、できるだけ考えを共有しておくことが重要だ。そしてお互いの工程を知り、進め方も理解し合うほうがよい。
次に、「最初に大事なことを話して、後はある程度お任せしないと、いいものはなかなかできない」と岩本さんは話す。そのとき、デザイナーと発注者の間で調整する人を立てて任せる方法がある。
岩本:全体を見て編集する人が間に入れば、デザインと内容のバランスを考え、それぞれの主張を“翻訳”して伝えたりして、どちらにも合うよう進められるのではないでしょうか。
金沢・近江町市場。新幹線の開通で観光客増加が予想される
今後金沢のまちがどうなってほしいかと尋ねると、岩本さんは次のように話した。
岩本:北陸新幹線の開業で、全国どこにでもあるようなお店が増えると、まちの魅力が減る。変わったもの、小さい規模のものが多く残るほうが面白いまちだと思います。イベント開催などでなるべくそれを残し、価値が見直されればと思います。
岩本さんは乙女の金沢展で、そこに並ぶものはあなたと関係ある、魅力的なものだと伝えている。しかし何よりも人に訴えかけるのは、魅力あるものがいくつも並ぶ姿だ。それは岩本さんが多くの人と話し、調整を重ねたからこそ集まったものである。つくり手、集め手など多くの人の前向きな気配が、ものやデザインに、足を止めさせる魅力を備えさせるのではないだろうか。
(取材・文/青木 遥)
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