足を止めさせるもの・デザイン・見せ方とは  「乙女の金沢」が伝えるまちとひとの魅力

2015.06.01石川県

書籍「乙女の金沢」―ぐっとくるものを「乙女」に見せる

 約10年前、東京で勤めていた出版社の上司から岩本さんに、「乙女」シリーズの1冊として『乙女の金沢』という本をつくらないかという話があった。岩本さんは最初、「乙女」という言葉に「いいイメージがなかった」というが、

岩本:
それまでのガイドブックにある、安く大量生産のお土産にお金を使ってほしくないと思っていました。金沢のまちには、個人のおもしろい店がたくさんあるんです。本に出てほしい人に、『乙女』だと言っても悪い反応はあまりありませんでした。乙女と書くことで読む人は減るかもしれないけれど、観光客が押し寄せるのも大変だから、来る人の層が狭まるくらいでいいかと思いました。それがこんなに続くとは思いませんでしたね。

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まちの小さいお店や地元のお気に入りの場所を紹介した『乙女の金沢』

 岩本さんは金沢で暮らす日々の中で、本に出てほしいと思う人たちに出会ってきた。

岩本:まちをうろうろ歩いて、人に会って話をして、そこで“拾う”。情報を拾うときもあるし、みんなの“感じ”を拾うときもある。イベントも本も、出てくれる人がいないと成り立たないし、出てくれる人によって変わる。その人がどういう思いでやっているか、どういう風に作って見せていきたいのかというような、話して得られるニュアンスを普段から拾って、イベントや本を企画するときに、そのニュアンスを入れています。

 岩本さんは基本的に、個人商店や個人の作家など、「小さい規模でも志を持ってやっている人たち」にイベントや本に出てほしいと考えている。彼らにとって、

岩本:
もうかることや効率がいいことの優先順位はあまり高くありません。志を持ってつくっているので、なるべくいい形で紹介して、ものをつくって売って生活していけるようになるといいと思います。また、丁寧に作られたものにお金を払って使い、食べることは大事だと思うので、それが出てもらう人の基準にもつながっています。

 『乙女の金沢』をよく見ると、掲載されているのが、いかにも「乙女」という雰囲気のものばかりではないことに気付く。味噌や糀、文学館や博物館まで載っているのだ。

岩本:かわいい感じのものをと思って選んではいました。自分なりのツボにはまるもの、ぐっとくるもの、そのときに面白いと思ったものを選んでいきました。

 カラフルな水引のついたのし袋は、さまざまな色のものを一直線に並べて、真上から撮影する。食べ物は箱から出したり、並べたり。撮影方法にも技が使われている。

岩本:
どう載せるかによって、同じものでも全然見え方が違ってきます。選ぶものというより、見せ方で“乙女”を出していけばいいのではと思っていました。

味噌にも姫だるまのポップ
味噌にも姫だるまのポップ

 この本で魅力が広く伝わったものの一つが、表紙に使われ、「乙女の金沢展」のフライヤーのモチーフにもなった姫だるまだ。もともとは金沢の安江八幡宮に伝わる「加賀八幡起き上がり」で、八幡大神の姿を写した、倒しても起き上がる人形である。『乙女の金沢』にもこの人形や、人形をモチーフにした加賀手まりが紹介されている。

岩本:加賀手まりの起き上がりは、当時は商品ではありませんでしたがあえて出しました。こうなるとかわいく見えてきますね。それまで、起き上がりのことを皆さんあまり気にしていなかったのに、最近では他の作家さんもこれをモチーフにしてデザインに入れています。

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