「遊びスピリッツ」に彩られたポップカルチャーと観光の出会い

遠藤英樹奈良県立大学地域創造学部教授

2013.06.16埼玉県

ポップカルチャーと観光が出会う

 近年、観光のシーンにおいて、ポップカルチャーの力に多くの人びとの注目が集まっている。テレビドラマ、アニメ、マンガ、映画、ポップミュージック、ゲームなどは、これからの観光において大きな役割を担っていくと考えられるようになっている。

 たとえば日本のマンガやアニメは、中国・台湾・韓国をはじめとするアジア諸国はもちろんのこと、中東諸国や欧米諸国にも、多くのファンを有している。これら日本のマンガやアニメの登場人物(キャラクター)になりきって扮装する「コスプレ大会」が国内外で開催され、多くの人びとが訪れるようになっている。東京で夏と冬に開催される「コミック・マーケット」というイベントを挙げるなら、この来場者数は毎回50万人を超えるほどである。

 ポップカルチャーは今後、国や地域の魅力を世界に伝え、観光客を世界中から呼び込むものとしてなくてはならないものであるという認識を、私たちはもっていくべきだろう。ポップカルチャーが観光と出会うことで、新たな観光を創造しようとする動きが数多く見られつつあるのだ。

さまざまなポップとつながる

 アニメの聖地巡礼も、そうした観光の事例のひとつである。これは、アニメが舞台としている場所を、アニメファンたちが見つけ訪れるという観光のかたちである。

 この観光を広めるきっかけとなったのが、『らき☆すた』というアニメである。このアニメが舞台に設定しているのが、埼玉県の鷲宮(わしみや)という場所だ。主人公の少女は、この場所の神社の神主の娘という設定である。このアニメを見た多くの人たちは、ここを一目見ようと、観光に出かけるようになっている。
 それだけではなく、観光客が鷲宮において自分たちで色々なイベントを自分たちでたちあげようと地域住民たちと知恵を絞りはじめるようになっている。

 もちろん、ポップカルチャーと観光の出会いはアニメに限った話ではない。B-1グランプリでは食、ロックフェスではポップミュージック、戦国武将ゆかりの地めぐりでは『戦国BASARA』といったゲームなど、さまざまなポップカルチャーが観光とつながり始めている。

 だが、ここで、私たちはよく注意しておくべきことがある。

 ポップカルチャーを観光とつなげようとする際に、私たちはともすれば、地域の魅力発信や経済振興といった部分にばかり、目がいきがちになってきたのではないか。「地域(あるいは日本)の観光振興を何とかはかりたい!」という想いが強すぎ、そればかりが強調されると、訪れる人も、地域の人たち自身も楽しいと感じられなくなってしまう場合もあったように思われるのだ。

 観光が楽しいものでなくなっては元も子もない。だからこそ、ポップカルチャーと観光の出会いを「楽しみながら模索する」―そんな「遊びスピリッツ」とも言うべきものを、観光を創造する人びとは、もっともっと大事に考えてもよいのではないかと私は思っている。

著者プロフィール

遠藤英樹

遠藤英樹奈良県立大学地域創造学部教授

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