薬師湯代表・内藤陽子さんに聞く、温泉津温泉のヘルスツーリズム

2015.10.01島根県

薬師湯の魅力を磨き、わかりやすく伝える

古い建物が残る温泉津の通り
古い建物が残る温泉津の通り

 温泉津温泉には元湯温泉と薬師湯の二つの外湯がある。それぞれに泉源があり、旅館にも分湯はされているが、より源泉に近く効能が期待できることなどから外湯を訪れる宿泊客も多い。また日帰り客も外湯を使う。
 内藤さんはなぜ薬師湯を経営するようになったのか。

内藤:嫁ぎ先が泉源主で施設の所有者だったのです。しかし以前は、番頭のような役割の方が経営していました。この方が引退するときに、今は健康に興味を持つ人も増えているので、この時代に合う経営者を探したほうがいいということになり、これからは家族で直接経営した方がいいのではないかと私が提案したことがきっかけで、私が経営すればいいという話になりました。
 そのとき私は主人の仕事の関係でオーストラリアに住んでいました。主人は一人息子だったので、海外に住んでいても行事などで帰省してはいたのですが、あるとき帰国すると、温泉津湾の埋め立て工事の話がほとんど最終段階まで進んでいました。これに反対するために主人は温泉津を離れることができず、私が一人でオーストラリアに戻って主人の会社を守りながら、自分の仕事やボランティアなどを続けていました。埋め立ては2002年3月に中止が決まりました。

薬師湯に入り難病が治った人が多くいるという
薬師湯に入り難病が治った人が多くいるという

 内藤さんは2004年の暮れに帰国し、薬師湯を引き継いだ。それまで、温泉の良さを番頭さんや義父母から聞いてはいたが、特に強い関心を持っているわけではなかった内藤さん。

内藤:引き継いで目の当たりにしたのは、お客様の病が本当に治っていくことです。出入り口と更衣室の間の数メートルもないところを一人で歩けなかったお客様が、1週間くらいで歩けるようになっていきました。有名な温泉病院でこれ以上やっても時間とお金の無駄だから退院した方がいいといわれた方、いろいろなお医者さんから見放された方も救われたと聞いて、改めてすごいんだなと思いました。

薬師湯をリニューアルし、情報発信にも力を入れる

リニューアルでは自らペンキを塗った
薬師湯のリニューアルでは自らペンキを塗った

 温泉の力を知った内藤さんは、薬師湯のリニューアルに取り掛かる。

内藤:今はきれいになったけど、本当に汚かったんです。スタッフと一緒に、掃除しまくりました。ペンキも自分で随分塗りました。

 また、情報発信にも力を入れ、雑誌に載せる広告写真はよりいきいきとした感じに撮ってもらえるよう工夫し、キャッチフレーズも考えた。

 さらに、目の当たりにした温泉の良さを証明したいと考え、日本温泉協会の審査を受けることにした。源泉、泉質、引湯、給排湯方式、加水、新湯注入率の6項目について5段階で評価されるものだが、厳しい審査の結果、全項目最高評価の「オール5」を取得した。当時は全国で11カ所目、中国地域では初のことだった。

 温泉の良さを医学的に説明するために、内藤さんは島根大学医学部修士課程に入学して研究を始めた。それまでに食生活アドバイザーなどの資格を取っていたが、もともとは文系で、仕事をしながら試験に向けて早朝から医学用語などを勉強したという。現在も博士課程で研究を続けている。

 そしてスタッフ全員が「温泉ソムリエ」の資格を取った。そうした中で薬師湯の力がどこから来るのか、少しずつ明らかになってきた。薬師湯の泉質はナトリウム・カルシウム‐塩化物泉で、ミネラルが多い。泉温は45.8度と高い。源泉から浴場までの距離が短いため、泉源の炭酸が抜けない。

内藤:芯まで温まって、血管が開いて血流が良くなるのです。また、肌の新陳代謝を促進するメタケイ酸と、肌をコーティングする塩化物泉の成分が両方含まれるため、温泉ソムリエの家元からは「W美肌の湯」と言われました。
 全国の温泉の源泉の管理施設を見せていただくことも多いですが、熱ければその場で水を混ぜて、何キロもパイプで運ぶところも多いです。
 たまたまうちは、そのまま湯に入れる45、6度のお湯が湧き出てきます。源泉の脇に施設を建ててくれた先々代のおかげでもあります。授かりものなのです。
 温泉にはいろいろな楽しみ方があり、温泉の施設や食べ物などを楽しんで、気分転換をして体調が良くなる人もいます。そうした中で、うちでは温泉の質を楽しんでいただきたいのです。
 以前は、温泉はのんびりできればいいと考える方が多かったようですが、2004年に入浴剤を使っている温泉の報道があったことなどで、温泉にもいろいろと違いがあるとわかってきてからは、薬師湯の効能に、少しずつお客さんの目が向くようになりました。団体でなく個人の観光客が増えてきたことも追い風になりました。

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