地域の価値の向上と神聖性の再獲得こそが、聖地巡礼を終わらせない鍵となる
聖地巡礼のさまざまな取り組み
不都合な事例について、個別具体的に紹介するのもはばかられる。以下、コンテンツツーリズムの研究者Aが、実家のある○○県○○市に久々に帰郷し、地元でマンガ・アニメを活用した地域興しに取り組んでいた商店街関係者である高校時代の友人Bとの架空のやりとりとして書いてみる。
A「○○市も聖地巡礼に取り組んでたたんだね」
B「お前がコンテンツツーリズムを研究してるとはね」
A「きっかけはどんなんだい」
B「月刊少年XXXXに連載されていた作品『YYYY』の作者のZZZZ先生が、ここ○○市の出身だったんだ。3年前に、TVアニメ化されたんで、それをきっかけに、地元有志で色々と始めてみたというわけさ」
A「作品のこと、知らなかったなぁ」
B「主人公の制服は○○高校そのまんまだし、物語の舞台として、○○市内の○○や、○○が忠実に取り込まれていて、なかなか面白いんだよ。見てると『あーあそこだ』ってすぐわかる」
A「どんなことをやったんだい」
B「色々とやったよ。ラッピングバスを走らせたりとか、舞台マップを作って駅前の観光案内所で配ったりとか、フォトスポットにはポーズをキメたキャラクターのパネルを置いたりもした」
A「見るもの系だけかい?」
B「地元のお菓子屋が、銘菓「○○」の箱に作品に出てくるキャラクターをあしらった特別版を売りだしたりしたな」
A『時代は『モノ消費からコト消費』って言うけどね」
B「やること系もやったさ。アニメの声優さんを招いてトークショーをしたりとか。アニメの原画・背景展なんてのもやったな」
聖地巡礼 ―来訪者、地域住民、原作者をつなぐ大切さー
聖地巡礼が続かない理由もさまざまである。もう少し、二人のやりとりを続けよう。
A「色々とがんばった割には浮かない顔だね…」
B「『YYYY』は、マンガとしては、まだ続いているんだけど、TVアニメは、3年前の深夜に3か月放送されたっきりだしね。再放送とかもこの辺では特にないし」
A「あまり、話題にならなかった、と」
B「バスや、お土産にキャラクターを使わせてもらうのも、使用許可の更新をしなかったから、それっきりになってしまった」
A「権利の問題は難しいね」
B「ポーズをキメたキャラクターのパネルは、狙い通りフォトスポットになったんだけど、その手で殴られてるような感じで写真を撮ってTwitterに上げるのが流行ったりして、原作者のZZZZ先生が『キャラクターの世界観が壊れる』と怒ってしまって、速攻で撤去されてしまった」
A「原作者は絶対的存在だよなぁ」
B「頻繁に舞台として登場してたのが、ZZZZ先生の実家の近所でね、普通の住宅街だったのもまずかったな。地図をもった人が住宅街をウロウロしては写真を撮ってなぁ」
A「住民トラブルってやつだ」
B「高校の方に行って、制服姿の女子高生を撮る輩もいてなぁ…事件とまではいかなかったが、気味悪がられた」
A「オタクに対する偏見もあるんじゃないのかね」
B「声優さんのトークショーの時は、特に、熱狂的なファンの人が多かったので、この辺の年寄りは面食らったかもしれない」
A「来てくれた人を素直に歓迎できなかったわけか」
B「最近、声優さんが売れる前にいかがわしいビデオに出演してたというスキャンダルも発覚したりしてな…『子どもの教育上良くない』『もう止めちまえ』という話になってしまっているのさ」
成功する事例はさまざまだが、失敗する理由は、思いのほか、似たような原因によっているようだ。
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