連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その10.地域ブランドづくりは、知的財産制度の活用で守りを固め、攻めの戦略づくりと両輪で行う~知財制度、上手く活用していますか~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

 前回は、地域の魅力や商品の良さを伝えるためには、その商品につける名前「ネーミング」がとても重要であることについて述べました。今回は、少し硬くなりますが地域ブランドづくりに関わる制度の活用について述べたいと思います。これまで9回にわたって書いてきましたが、そのほとんどが経済効果等を生むためのブランディングにおける技術的なポイントやノウハウ、そしてそれを阻害するハードルについてでした。

 しかし、今回は「攻め」が上手く行っても「守り」ができないと全てが水の泡になってしまうという怖い話をしたいと思います。前回、魅力を伝えるネーミングが重要だと書きましたが、せっかく名前をつけて有名になっても、突然使えなくなってしまったらどうなるでしょうか。実際、長く使ってきた呼称でも、突然それが使えなくこともあるのです。

商標登録は早い者勝ちが基本ルール

 例えば、最近話題の「ティラミスヒーロー」の事例です。これはシンガポールで2013年にオープンした洋菓子店、おいしいティラミスが話題となって日本にも進出した店の名前です。しかし2017年6月に この「ティラミスヒーロー」という呼称が日本の全く別の企業によって商標登録され、本家の企業がこの名前を使えなくなってしまいました。このティラミスを展開する(株)ティラミスヒーロー社は、2015年に初めて日本においてイベントベースで商品展開を始めていますが、商標を登録することなく店頭販売をしていたようです。

 すなわち、自分たちが大切にしているシンガポールで有名になった呼称を日本では守りを固めることなく展開してしまったということになります。もちろん、海外で有名になっている呼称を模倣し、商標登録を行う行為は褒められたものではないのですが、これまで中国だけでなく日本においても繰り返されてきた悪しき商行為なのです。このように、商標を登録し専用使用権を第三者に持たれてしまうとその呼称は使えなくなってしまいます。

 商標の登録においては、制度上「先願主義」と言われる早い者勝ちの制度となっています。もちろん、国内で先にその名前を使っていて、とても有名になっていれば「先使用権」という権利もあり、一概に商標登録をしていなければ例外なく使えなくなるわけではありません。しかし登録が認められてしまうと裁判所において主張と立証をする必要があり、たいへん手間のかかることになってしまいます。このように、大切なネーミングや呼称が使えなくならないようにまず守りを固める必要があるのです。

地域ブランドにも商標先願の壁が

 おわかりだと思いますが、地域ブランドづくりにおいても経済価値を生み出すことに直結する知的財産として「ネーミング」を捉える必要があります。まず、使用するネーミングを知的財産として捉え、守りを固めることから地域ブランドづくりを進める必要があるということです。ある弁理士は、『「知的財産」とは、事業活動上で役に立つ知的な創作活動の成果についてこれに経済価値を認め、「財産」として捉えたものをいう(「地域の生存と農業知財」正林真之より)』と述べています。まさに、地域ブランドにとっては呼称が知的財産価値の核になると言っていいでしょう。

 そもそも、ブランド化を進める事業対象物に特定の呼称がなくては何も進まないことは自明です。特に、地域ブランドにとっては地名に価値を持たせることが重要なのですが、残念ながら2005年3月までは地名を商標登録することはできなかったのです。しかし、我が国でも2005年4月1日に商標法が改正され「地域団体商標」の取得が一定の要件の下で認められるようになりました。地域団体商標制度とは、「地域名+商品・サービス名」について一定の要件を満たしたものに対して登録が認められる制度です。それまで地域名がついた呼称については、「夕張メロン」のようにほとんどの人が知っている有名なものだけにしか登録が認められていなかったのです。

 しかし、諸外国において地域名のついた商標が登録されているケースが発生し、輸出することが困難になる事態が想定されました。例えば、2003年中国において「青森りんご」を輸出しようと検討した際に、「青森」という呼称がすでに中国で登録されていました。中国の商標制度では、商標法第10条に「公衆に知られた外国地名」は商標登録をすることができないと規定されていますが、逆に言えば、中国の公衆に知られていない外国地名ならば、商標として登録することができたのです。すなわち、この場合中国の公衆にとっては青森という呼称は地名として広く知られておらず登録に至ったと推察できます。したがって、このようにすでに青森という呼称が登録されていることから「青森りんご」は、この権利に抵触する可能性が想定されたのです。

 このようなことを回避する方策の一つとして、地域団体商標制度が検討され制度化された側面もあります。しかし、地域団体商標は外国に対して影響力は持てないようです。ここで言えることは、中国に輸出をするのなら「青森りんご」という商標を中国国内で先願する必要があるということです。ティラミスヒーローの事例と同様のことが起こらないように、守りを固めて攻めを展開する必要があるということでしょう。いずれにしろ、「名前」を知的な財産として捉え、守りを固めることがブランディングにおいてはまず最初にやるべきことなのです

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青森県の弘前りんご博覧会

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