連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その7.地域ブランドづくりに必要な「コンセプト」~地域ブランディングに取り組む上での大きなハードル「コンセプトの共有」~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

焦点を絞る「コンセプトづくり」の難しさ

福井隆 地域ブランド
玉造温泉のコンセプトに基づくパンフレット

 実際には、コンセプトが大事だと分かっても、いざ決めようとするとなかなか難しいものです。

 先の「自然美」の例に挙げたように、公平さを重視するあまり差しさわりの無い抽象的で魅力を感じられないコンセプトになりがちです。なぜなら、どこの地域にも魅力ある資源はたくさんあり、その上に利害関係者がたくさんいるでしょうから、焦点を絞ることが難しいのです。

 実際、玉造温泉においても観光まちづくり事業のコンセプトを決めるにあたって、地域の有力者から反対意見が強く出されたと聞きました。そのハードルを超えられたのは、コンセプトを決め事業を行う責任者を明確にしたこと、そして内容も住民、関係者にとって納得のいくコンセプトだったため了承されたそうです。玉造温泉のコンセプトは、地域のDNAの一つである「出雲風土記」の内容から生み出されたものだそうです。具体的には、古代から言い伝えられてきた神々のモノガタリを活かし、加えて出雲風土記に謳われている泉質の良さを「美肌」に良いことを実証し、そのことを魅力の核としてコンセプトを決めたからなのです。

 次の写真「まく本」とタイトルのあるパンフレットは、鹿児島県枕崎市の観光協会が作成した観光ガイドブックです。このガイドブックは、良く見ると鰹節を削った花かつおが表紙を飾っています。

 ページを開くと、全24ページの内最初の9ページ目までを枕崎におけるカツオにまつわるコトが語られています。その中でも表紙をはじめほとんどが鰹節のモノガタリにページが割かれています。通常の観光パンフレットとは、全く様相が違います。

 枕崎には、有名な薩摩黒豚発祥の地であったり、日本の紅茶復活の地であることや有名な焼酎薩摩白波など全国レベルの地域資源が豊富にあるにもかかわらず、カツオに焦点を絞った観光宣伝パンフレットになっています。

 通常の観光パンフレットであれば、こんな良いものがある、こんな良いところがあると、ほとんどが並列に扱われ地域資源の写真が並べられるのが普通です。ここでは、枕崎の物語として「カツオと鰹節」に焦点を絞って語られているのです。その結果、直接的に観光客が急増したわけではありませんが、鰹節の生産販売量が日本一になっただけでなく、フランスにも鰹節の製造工場が立ち上がることにもつながったようです。

 枕崎はカツオ文化の街として、モノガタリがフランスまで輸出されるまでになったのです。

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花かつおが表紙を飾る「まく本」

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