クラフトめぐりからまちづくりへ 高岡クラフト市場街実行委員長松原博さんに聞く

2015.11.04富山県

連携でものづくりを盛り上げる

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ものづくりの現場で直接話を聞く

 江戸時代初期の慶長16年(1611)、加賀藩2代藩主の前田利長は7人の鋳物職人を高岡に呼び寄せ、金屋町に鋳物場を開設させた。それ以来現在まで、高岡では鋳物や漆器などの伝統工芸をはじめとしたものづくりが盛んに行われている。昭和52年には郊外に高岡銅器団地ができ、多くの企業が移転した。

 高岡市では昭和61年から、高岡商工会議所主催による「工芸都市高岡クラフトコンペティション」と「工芸都市高岡クラフト展」が行われてきた。
 初期には地場産業との連携や人材発掘に成果をあげたが、近年では長野県松本市の「松本クラフトフェア」をはじめ、作り手と使い手が直接のやりとりを楽しむコミュニティ型クラフトフェアが各地で人気を集めるなど、時代の変化とともにコンペに期待される役割にも変化が生じてきた。商工会議所は外部人材によるタスクチームを組織し、その存続を含めてクラフト展のあり方を検討することにした。高岡市産業振興部や市デザイン・工芸センターの職員らとともにチームに入ったのが、当時富山大芸術文化学部教授でコンペの審査員も務めていた松原さんだ。約半年かけて調査、議論したが、全国規模で幅広いジャンルが対象のクラフトコンペは、現在では高岡を含め二つしかない。

松原:これをやめるのはもったいない。コミュニティ型クラフトフェアに対して、技術の粋を競うクラフトコンペもあってもいいのではと、まずは存続を決めました。その上で、高岡のさまざまなイベントを、クラフト展を中心にまとめて行ってはどうかという意見が出ました。クラフト展を盛り上げる意味で始めたのが市場街です。

 それまで、市デザイン・工芸センター主催の「クラフトマンズギャザリング!」、高岡伝統産業青年会主催の「高岡クラフツーリズモ」など、ものづくり関連のさまざまなイベントが市内で行われていたが、連携する動きはあまりなかった。

松原:市場街の冠をつけても、実際の運営は各主催団体にかなり頼らなければなりません。横の調整に最初は手間取りました。

 それでも市場街を開催しようとした理由の一つが、高岡の伝統工芸の状況だ。例えば鋳物は、主力製品の仏具が以前のように売れなくなっている。伝統産業青年会の現場見学ツアーも、市場縮小の危機感が背景にあった。

高岡伝統産業青年会主催の「高岡クラフツーリズモ」
高岡伝統産業青年会主催の「高岡クラフツーリズモ」

松原:メンバーの親の世代は高度経済成長期でしたが、気が付けば業界に元気がなくなってきている。彼らには自分たちの生業の場を確保していくというミッションがあるのです。ツアー開催にあたっては、お客様への対応を考えたり、作業場を掃除したりと仕事以外の準備が必要ですが、自分たちの仕事を見直すことができ、ファンができます。

 こうして地道にファンを増やすことが今後の市場確保に結びつく。さらに、高岡を「ものづくりの現場が見られるまち、おもしろいことをしているまち」としてブランド化し、盛り上げたいという考えもあった。

 これらを解決するためには、多くの人に訪れてもらうことも重要だ。それまでクラフト展は1月ごろだったが、より集客しやすい10月に行うことにした。初年度は商工会議所内に実行委員会があり、会議所が事務局を務めて、松原さんも団体の調整などに尽力した。芸術を生かした地域連携教育「つままプロジェクト」を進める富山大芸術文化学部と連携し、新たな企画も準備された。

 こうして2012年10月に開催された第1回「高岡クラフト市場街」では、クラフト展への1日当たりの入場者数が前年の2.5倍の4,000人、市場街全体には14,000人が訪れた。クラフト展での売り上げも前年の4倍に伸びた。

松原:手応えがありました。最近ではインターネット販売も増えていますが、目で見て触って、直接話ができることが求められていたようです。ものを目の前にして話すと、それまでと全く違う話に展開したり、自然に笑ったりもします。数字では表せない充実感があったのではないでしょうか。近隣のほか、東京からも来てもらえたのはうれしかったです。

 ビジネス面でもいくつかの取り引きが新しく決まった。こうした成果で、市場街は翌年も開かれることになった。

 翌2013年は、実行委員会事務局の機能を、商工会議所の委託により一般社団法人CREP4が行った。新たな柱として「食」を加え、地元食材をふんだんに扱った「たかおかローカルキッチン」などがスタートした。飲食店でクラフトを器に使って料理を出す「クラフトの台所」は特に好評で、この翌年度には通年で、市内の飲食店が地元産の食器を購入するときに市が経費の一部を助成する事業が誕生した。

たかおかローカルキッチン(カフェミンピ)
たかおかローカルキッチン(カフェミンピ)では地元食材の料理が食べられる

 2014年からは商工会議所から独立し、商工会議所、伝統産業青年会などによる実行委員会が主催する形式となった。事務局機能はCREP4が引き続き実行委員会から委託を受けている。この年からはものづくり体験ワークショップが始まり、今年まで来場者数は年々増えている。

 2012年以降、全体の方向性決定や調整は月1回の実行委員会で議論しながら行い、それ以外の準備、例えばウェブやフェイスブックの更新、広報、ちらし配布などは事務局で行っている。スタッフが少ない中で大量発送などもあり「事務局の負荷は高い」と松原さんは話す。

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