温泉街を活性化させ、若い世代を呼び込むために必要なこと

岡田拓也株式会社旅と館 代表取締役

2018.09.10長野県

温泉街を活性化させ、若い世代を呼び込むために必要なこと
源泉が多く、美肌の湯として知られた戸倉上山田温泉

 静岡県熱海市や大分県別府市のような温泉地がある一方、衰退が著しい温泉地も多くある。そんな中、長野県にある戸倉上山田温泉を活性化させようと、岡田拓也さんが立ち上がった。

 岡田さんは2016年にコワーキングスペース&カフェ「アルゴット戸倉」をオープンし、人が集まる場づくりに取り組んだ。さらに温泉地と言えば温泉まんじゅうというイメージを払拭させようと、フローズン飲料「風呂ーズン」を開発。インスタ映えするとあって人気となっている。また「全国温泉風呂ーズン協会」も設立し、県内外の温泉街と連携しながら地域を盛り上げている。

 岡田さんにコワーキングスペースをオープンした背景や、観光客と地元の人が温泉地に集まるために必要なこと、今後展開していきたいことについてご執筆いただいた。

活性化への第一歩は中心街よりも駅前から

 長野市出身の私が高校卒業後、県内随一の規模を誇る千曲市の温泉地「戸倉上山田温泉」の旅館に就職し、多くの温泉地でフロント業務をはじめ、予約管理、広報、経営管理、ときには布団敷きや風呂掃除など実に16年間の現場経験を積み重ねてきました。老舗と言われる旅館から、リニューアルしたての旅館、一人何役もしなければ回らない小規模旅館などもあってさまざまです。

 こうした現場経験を生かし、旅館業務や経営を支援する会社「株式会社旅と館」を2013年に立ち上げました。現在は、県内を中心に経営課題を持つ旅館に訪問し、解決に向けた具体的アドバイス・施策提案などをしています。
 また、国家資格を特に持たない私ですが、これらの業績が認められ、国や長野県の支援機関から「専門家」として認定されています。

 そんな私がなぜ戸倉上山田温泉の活性化に携わるようになったのか、理由は2つです。1つは旅館の従業員として人生の半分近くを過ごし、温泉地に対する熱い思いがあったから。もう1つは、今の仕事で県外に行く機会が増え、温泉地の魅力を改めて見直したからです。
 温泉地のためにできることはないかと悩んでいるときに生まれたのが、温泉地の中心街ではなく「玄関口」から明るくしてみようというアイデアでした。

 戸倉上山田温泉の最盛期は昭和48年ごろ。当時は宿泊者数が年間100万人を超え、県内では上諏訪温泉(諏訪市)や浅間温泉(松本市)、湯田中温泉(山ノ内町)などとともに団体旅行で賑わいをみせていました。古い町並と伝統を受け継いでいる温泉街でしたが、高速道路網の充実や北陸新幹線の開業により、首都圏からの日帰り圏内となったことで、以前は主力であった社員旅行などの団体旅行客が減少しています。それに伴い、温泉街の賑わいが失われつつあります。他にも人口減少や後継者不足など、課題が山積しています。

 ここで地域の「玄関口」についての話になります。これまで戸倉上山田温泉の「玄関口」といえば最寄り駅であるしなの鉄道線の「戸倉駅」でした。しかし、今は駅前商店街とは言えないほど空き店舗が目立ち、夜になると温泉街の最寄り駅とは思えないほど暗いイメージに陥っています。

温泉街を活性化させ、若い世代を呼び込むために必要なこと
夜の戸倉駅

 そこで、戸倉駅前のイメージを少しでも明るくし、人が出入りする場所、温泉街のPRにもつながる場所づくりになればと考え、これまで地域になかった新しいコミュニティを生みだす「コワーキングスペース」の運営を始めたのです。

 これまでよくあったのコワーキングのように仕事場を提供するだけでなく、駅前活性化に向けたイベントやビジネスマッチング、起業サポート、移住促進などを行い、その中で地域が一体となる「つながり」を生み出し、住み慣れた千曲市や戸倉上山田の情報発信を通じて地域がもっと元気になることを目指して活動しています。

 人が集まれば温泉街だけでなく「地域」は良くなります。特に移住人気県ナンバー・ワンである長野であることは絶好のアピールポイントになります。都会で事業を行う人が長野で働く機会を増やし、活動拠点をコワーキングが提供することで、地元利用者との県外利用者の交流が生まれる同時に、ビジネスアイデアも生まれやすい環境を創出すことができます。さらには、「何か始めたい」という人が都会に出向かなくても情報をキャッチし、長野にはなかった新たな産業を築くことにもつながります。地域の既存ビジネスは低迷し、新しい取り組みが必要とされています。このままでは、雇用が創出されにくく収入の低下も懸念されます。そこで、事業や人のマッチングを図り、県全域を元気づけたいと考えているのです。

温泉街を活性化させ、若い世代を呼び込むために必要なこと
コワーキングスペーススペース「アルゴット戸倉」を活用する人たち。地域在住の奥様たちが、女性活躍のための事業案を検討している

温泉街を活性化させ、若い世代を呼び込むために必要なこと
カフェのみの利用も可能

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