低い山で歴史探訪と地域文化を愉しむ旅 ~「低山トラベル」の可能性~
入口は低く、広く、平たく
山の楽しみ方は人それぞれ!
日本には、素晴らしい登山ガイドがたくさんおり、専門のツアーでなければ行けない場所もたくさんある。しかし、興味を示しつつも、専門性の高さに気後れし、なかなか参加する勇気が出ないという人も、実はかなり多い。特にこれから登山をはじめようという初心者には、なおさらのことだろう。
同時に、リスクのこともある。高山には滑落事故が、低山には遭難事故が多い傾向があり、準備不足で痛い目にあう人もあとを絶たない。地図にしても食料にしてもトイレにしても、すべてが現地にあるわけではなく、あまりの軽装に見ているこちらが不安になることも、現実には多い。ゆえに、認証を受けた登山ガイドや手厚いサポートのある登山ツアーは、実は気後れがちな初心者にこそ打ってつけ。だからぼくは、登山をはじめるきっかけとなりながらも、専門性の高いものとの‟中間”で、やわらかくつなぐ存在になりたいと考えている。
都市と自然をつなぐのが里山や低山の面白さだろう
日本百名山の著者・深田久弥の言葉を借りれば、「百の頂に、百の喜びあり」だが、より深く解釈すれば「一の頂に、百の喜びあり」だ。同じ景色を見ていても、見え方は人それぞれ。同じ山を歩いていても、人それぞれの感じ方、楽しみ方がある。それでOKだし、あなたの感じたことをみんなにシェアしてほしい。
こうしたスタンスは、楽しみが多様化する現代にフィットしている。低山に注目するのは、そうした時代ならではの気分も加味してのことだが、なにより自分自身が一番楽しめて、継続的に取り組めることだからだ。
ときにはピークハントで‟非日常”もよいが、末永く知的な大冒険を日常的に続けて、日本を存分に楽しみたい。こんな風に考える「低山トラベラー」が増えれば、もっと日本各地が賑やかになるだろう。そういう旅人を惹きつけられる地域には、まだまだやれることはあると思うのだ。
■著者プロフィール
地域の歴史や伝承を辿りながら山を歩き、日本のローカルの魅力を探究。ピークハントにとらわれない新しい登山スタイルを提唱し、足で覚えた山旅の愉しみ方を言葉と写真と小話で伝えている。
NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、手書き地図推進委員会研究員、著書に『低山トラベル』(二見書房)など。2017年は山岳雑誌「岳人」で連載、NHK Eテレ「趣味どきっ! 大人の歩き旅」およびBS日テレ「低山トラベラー」で山の案内人をつとめ、好評を博した。宮城県仙台市出身。
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