低い山で歴史探訪と地域文化を愉しむ旅 ~「低山トラベル」の可能性~

大内 征低山トラベラー

2018.04.12岐阜県東京都

自然大学校の歴史探訪企画、どうつくる?

低い山で歴史探訪と地域文化を愉しむ旅 ~「低山トラベル」の可能性~
低山歩きをしながら歴史や地理を知る楽しみ方(神奈川シニア自然大学校主催イベントの様子)

 ある日、ラジオ深夜便を聴きました、という一通のメールが届いた。シニア向けの自然学校のスタッフからで、歴史探訪と山歩きを掛け合わせた企画がやりたいというものだった。偶然、受講生の方がぼくのコーナーを聴いていたそうで、すぐさま‟ググって”くれたそうだ。とても嬉しい出来事だった。

 活動は神奈川を中心としているため、企画そのものも「相模国」からはずれないようにしたいという要望を受けていたが、ぼくはいきなり「武蔵国」をその舞台に選んだ。テーマは「神奈川の文化源流を辿る」という設定で、多摩川を遡った東京の御岳山で、オオカミ信仰や鎌倉幕府との関わりを話しながら山歩きをするものにした。そこに、関東一円に影響力の大きかった相模の石尊信仰の話も引き合いに出す。となり合うふたつの国が、どのような背景でどのような信仰の違いを山にもっていたのかがわかると、低山ハイクと日ごろの暮らしの結びつきが感じられるのだ。

低い山で歴史探訪と地域文化を愉しむ旅 ~「低山トラベル」の可能性~
東京・御岳山の山頂に鎮まる大口真神社。迫力ある狼(山犬)が社を護る

 ちなみに、武蔵の御岳山は、獣害をもたらす動物を捕食するオオカミが神格化した山だ。多摩川の上流に位置するため、その流域の農家に広がったいきさつがある。これが今日の東京の農家の信仰の姿だ。相模の大山は上空に雨雲をつくる‟雨降り”が祈りの対象となり、山頂にあった磐座を農業の神と見立てた石尊信仰が広まった。関東のあちこちに‟石尊”と名の付く山が多いが、それらはすべて神奈川の大山に起源がある。

 山歩きの企画でもっとも注意を払っているのが「歴史探訪×低山ハイク」「現代社会の暮らしや地理との連続性」を掛け合わせるということ。さらに「他の地域の山とこの山との関係性」にまで触れると、想像の旅が派生し、増殖し、加速する。いささか情報量は多くなるが、他では聞けない話に、参加者たちの空想の山旅はどんどん広がっていくだろう。

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