暮らしぶりを磨き上げ、価値を高める地域の編み方  〜「短命県」も「剪定」も魅力ある観光コンテンツにする思考法〜

西谷雷佐たびすけ合同会社西谷代表 株式会社インアウトバウンド仙台・松島代表取締役 一般社団法人東北インアウトバウンド連合理事長

2018.03.12青森県

暮らしぶりを磨き上げ、価値を高める地域の編み方 〜「短命県」も「剪定」も魅力ある観光コンテンツにする思考法〜
軽トラックの屋根を切断した、りんご畑の作業車「バゲ」。りんご作りと共にある道具も魅力的な観光コンテンツだ

“旅”が押してくれた、自分の中の「気づくスイッチ」

 ところが最初に「剪定体験ツアー」の企画書を作成し、相談をしにりんご農家を訪れた時、そのりんご農家は「観光客が冬のりんご畑に来て、枝切って、何が楽しいんだ?」と不思議そうな顔をした。相談している私はまるで変人扱い(笑)。りんご農家にとって剪定は日常生活と共にあるもの。当たり前過ぎて「価値」として捉えることがないのだ。りんご農家の不思議そうな顔とは裏腹にこの剪定体験ツアーは人気商品となり、毎年全国から多くの観光客が参加している。「りんご畑は、りんごを収穫するだけの場所ではない」。このようにりんご畑の在り方を“編集”することで魅力的な観光プロダクツが生まれる。りんご農家の日常にはワクワクするモノやコトがあふれているのだ。

 なぜ「りんご農家の暮らしぶり」の魅力に注目したかというと「青森県といえばりんご!」だからにほかならない。もちろん弘前公園のさくらや青森ねぶた、大間のマグロなど知名度の高いコンテンツはほかにもたくさんある。しかし県外、さらには「世界の人目線」で捉えると、やはり青森県は「りんご」というイメージが一番強いのではないだろうか。ならばこの「りんご」を徹底的に尖らせようと考えた。

 私の実家は弘前市内の商店街で商売を営んでおり、りんご産業と全く縁のない暮らしをしてきた。青森県に暮らしているとりんごは買う物ではなく貰う物。商店街で暮らしていてもりんご畑は当たり前のように日常風景の中にあったが、足を踏み入れることはなかった。だから最初は「りんご農家の暮らしぶり」の魅力に“気づく”ことはなかった。そんな私の“気づくスイッチ”を押してくれたのは「旅」だった。

 沖縄を訪れた時、初めてパイナップル畑の風景を目にした。当時の自分の勝手な想像では、ブドウのように果実が密集して木に実っていると思っていたので、それとはまるで違う実り方に「パイナップルってこんな風に実をつけるんだ!」と驚きの声を上げた。しかしテンションが高くなっている私とは裏腹に、一緒にいた沖縄の友人は「え? 普通だよ。珍しいかい?」と、とても冷ややか。この時「暮らす人の当たり前は、旅行者にとっては驚きと新鮮さがある」と“気づいた”のだ。一度“気づくスイッチ”が入るともう止まらない。沖縄で全国チェーンのコンビニに入ると、おでんコーナーに「豚足」がある。飲み物コーナーには「泡盛コーヒー」がある。お茶コーナーには青森ではあまり見かけない「さんぴん茶」がある。このようなちょっとした違いに“気づく”のが楽しくて仕方なくなった。そして青森に戻ると、りんごのある日常の風景が全く違うように見えた。自分自身がりんご農家ではないからこそ、いい意味での距離感がさらに気づきの感度を高めてくれた。

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