自治体等が実践すべき戦略的な観光広報とは

北村倫夫北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院教授

2014.12.01

自治体等が実践すべき戦略的な観光広報とは

  自治体等に必要な戦略的な観光広報とは、「マーケティングに基づく(観光)広報コミュニケーション(MBC:Marketing Based Communication)」を実践することである。

 ここでいうMBCとは、マーケティングの基本要素である「マーケットリサーチ<市場調査>」、「マーケットセグメンテーション<市場細分化>」、「マーケットアウェアネス<市場認知度向上>」などに基づいて実行される広報コミュニケーションのことである。

 北米や豪州の一部の自治体等では、観光客などを呼び込むための戦略と行動を示した「マーケティング・プラン」が策定されている。たとえば、“Melbourne City Marketing Strategy 2013-16”(豪州)、“Greensburg Tourism Marketing Action Plan 2012”(米国)などである。こうしたマーケティング・プランのもとで、効果的な観光広報コミュニケーションが実行されている。

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オーストラリア・メルボルン市のマーケティングプラン(2013-16)。メルボルンを特別な場所にする、日常生活のワクワクする体験を“メルボルン・モーメント”と名づけ、その体験を通じて都市を発見することをマーケティングプランの中心に捉えている。Melbourne City Marketing Strategy 2013-16 

 残念ながら、日本では「観光マーケティング」の考え方は浸透しつつあるものの、自治体等で「観光マーケティング・プラン」を策定している例はほとんどない。今後、自治体等では観光分野のマーケティング・プランを策定し、次のようなMBCを観光広報HP等で実践していくことが望ましい。

(1)細分化された観光目的に対応した観光情報パッケージの提供
 観光目的は、自然、保養、歴史観光等に加えて、産業、科学、芸術文化、エンターテイメント、スポーツ、イベント観光など細分化している。地域で実行可能な観光目的を示し、関連する情報パッケージを提供することによって、訴求力の高い広報が可能になる。

(2)観光客のタイプに応じた「痒いところに手の届く情報」の提供
 観光客のタイプも、一見客、リピーター客、高頻度来訪客、ビジネス観光客、コンベンション客、長期滞在客、個人客、グループ客、外国人客など細分化しつつある。こうした観光客タイプのターゲットを明確にし、痒いところに手の届く情報(例:外国人客には英語の通じる店情報)を提供することが重要である。

(3)観光行動のパターンに対応した広報コミュニケーションの実行
 観光客の基本行動パターンは、訪問地の「選択」→「学習」→「行動」→「整理」となる。これまでは、主に選択と学習段階での情報提供が中心であったが、今後は行動段階(例:観光AR<拡張現実>アプリによる情報提供)、整理段階(例:個人の体験・感想情報の書き込み等)での広報コミュニケーションの実行が有効である。

(4)ニーズの高い観光施設・サービスの評価情報の提供
 観光客のニーズの高い、訪問地における観光施設・飲食・サービスの評価情報(例:ランキング情報、観光客が評価する星(☆)情報、地元住民の評価情報等)を、収集・提供することが望ましい。

(5)地域協働型の観光マーケティング・広報サイトの構築
 欧米の主要観光地(例:スイスのサンモリッツ)にみられるように、中立的な地域コミュニティ(団体、NPO、住民、企業等)が中心となり、自治体や観光協会などと協働して観光マーケティング・広報のポータルサイトを運営することが有効である。

 以上のようなMBCの取り組みを、日本人、外国人観光客を問わず推進していくことが、すなわち、自治体等における戦略的な観光広報の一つのあるべき姿である。

著者プロフィール

北村倫夫

北村倫夫北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院教授

1981年北海道大学経済学部卒、同年野村総合研究所入社。主に都市地域政策、公共経営、事業支援の領域での国・自治体からの受託調査研究に従事し、2017年2月に同社を退職。
2007年より北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院の客員教授を経て、2017年3月より現職。主な著書・論文に、『情報世紀の育都論』、「自治体に求められる戦略的広報のススメ」(『自治体PRガイド』)、「北海道をでっかくマーケティングするための接近方法」(『ほくよう調査レポート』)など。

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