地域と歩む一歩が、生きる道を拓く。「東栄まちあそび塾」を仕掛ける伊藤拓真さん

2017.11.24愛知県

イベントで「稼ぐ」仕組みとは

 2016年9月、伊藤さんは計画実現をめざし、東栄町に戻ってきた。そして東栄町の店舗や団体など、さまざまな事業者に話をしはじめた。

伊藤:相手は私の存在を知っていても、話をするのは初めてで、信頼関係もない。いろいろなところへ顔を出して話をするようにしましたが、すぐに話が進むものではないと感じました。
 町全体として情報を発信していくことに賛同してもらったり、一緒にやれる部分はやりますよと言ってもらったりもしましたが、その中で私がどのように収入を得るのかと聞かれることもありました。
 自分でも、どう生計を立てていくのかがなかなか見えませんでした。「起業実践者」に選ばれていることにとらわれていたと思います。わからなくても、それでもやってみるという方法もあったと思うのですが。

 全国のオンパクはプログラムごとの参加料や広告掲載費などから収入を得て、多くの場合はそれに団体の協賛金、市町村の負担金なども加えて、パンフレット印刷代などの実費や人件費を賄っている。そうした見通しが立たない中で、イベントで収益を上げ、自分の生計を立てる方法が見いだせずに伊藤さんは悩んでいた。

 一方で「若者地元会議 りん」を立ち上げ、その代表となって活動を始めた。

伊藤:地元に戻ってみると、移住してきた地域おこし協力隊の方のほうが地元のことをよく知っていて、自分は知らないことばかりでした。自分の周りの同年代の人もそうで、出ていったきりで地元の祭りにもかかわれないとか、地元に戻りたいけれど行きにくいという声も聴きました。
 地元の人とのつながりを持ち、地元のことを知れば、今後の進路選択の幅が広がるのではないかと思いました。地元に住んでいる若い人も地域外の人とつながりができ、ふらっと戻ってきた人もこちらに居場所があるといいと思います。また、地域外に住みながら地元にかかわるやり方も見えてくるのではないかと思います。

 メンバーは現在約10人で、東栄町出身の学生が多く、名古屋のほか、浜松や千葉などに住む人もいる。りんでは名古屋で「とうえいどりんくす」と題して、集まって東栄町のものを食べ、東栄町の話をできるイベントを開催している。

どりんくすとうえいどりんくす

 また、メンバーで東栄町のイベントに出店することで、なかなか行かなくなっていた地元のイベントに足を運ぶきっかけにもしている。

ブース出展「日本チェンソーアート競技大会in東栄」で、チェンソーアートの作品を木版として活用したTシャツ作りワークショップのブースを出展

 この団体のメンバーの参加も得て、伊藤さんは集落でのイベントを企画した。「まち冒険」というウェブサイトと連携して2017年2月に実施した「まち冒険in足込」は、都会に住む学生が東栄町の足込集落を訪れ、農家でのさまざまな体験をし、それをもとにツアー企画をまとめて発表する1泊2日のツアーだ。
 東栄町では集落ごとに「おいでん家」という住民の交流拠点となる施設がある。足込地区の「おいでん家支援員」と伊藤さんは連携して、この利用者である住民の協力を得た。講師となる住民は70代から80代だ。

 当日は10人の学生が参加し、半数が東栄町出身、半数は町外出身だった。学生たちは布ぞうりづくり、まゆ花づくり、郷土料理、そば打ちなどを住民に教わりながら体験。夜には交流会を行い、50人以上の住民が集まった。翌日には学生がツアー企画をまとめ、住民への発表会を行った。

まち冒険1
まゆ花づくり

まち冒険3写真体験プログラムの発表会

まち冒険2多くの住民が集まった

 町外から訪れた学生はもちろん、東栄町出身者にとっても初めての体験と発見が多く、住民の温かさを感じたようだった。また住民の方々も学生との交流を楽しんだようだ。

 このイベントを経て、改めて伊藤さんはオンパク手法を使ったイベントを開催する意味を考えた。

伊藤:もともと、東栄町に多くの人が来てほしいという考えはあまりなかったのです。地域の人が、東栄町には「何もない」ではなく、自信をもって「東栄町から来た」と言えるようになることが重要です。地域の人だけではその価値になかなか気づけない。地域外の人に体験してもらい、交流ができる場があることで、まちの魅力がわかってくるのではないかと思います。それを行政や外部の人だけでなく、みんなが参加してつくることで、コミュニティもできてくるのではないかと思います。

 伊藤さん自身も、おいでん家などで住民から地域の昔の話や遊び方などを聞き、若い自分たちの世代も地域を楽しめるやり方を知ったという。一方で、集落の課題も目の当たりにした。例えば独居高齢者の世帯で何かあったときに、家族にどう連絡するか、防災面でどのような体制が必要かなど、行政や外部サービスに頼るだけではなく、自分たちで考えて行う「集落自治」が十分に機能していないのだ。
 伊藤さんは、町の行う「集落カルテ」の作成に向けた聞き取り調査に同行させてもらうことにした。これは生活する上での困りごとなどを住民一人一人に聞くものだ。

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