「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて

宮田安彦大妻女子大学家政学部ライフデザイン学科教授

2017.10.04

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
松屋銀座のKIKIZAKE BARで解説者として立つ学生

「ご当地カクテル」への転換

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
松屋銀座のKIKIZAKE BARの限定メニュー

 SSI・FBOは「地酒祭り」を年2回開催しますので、このサイクルに合わせ、半年後にまた別のカクテルを開発し、同様にブースにて提示、適用を行いました。この活動は、東京銀座にある松屋銀座に取り上げていただき、2015年7月から1カ月間、地下1階「KIKIZAKE BAR(キキザケバー)」において実販売されました(後述の「十日町カクテル」も含む)。

 しかし、東京都内に日本酒バーなどが出現し始め、またそこで何種類かの日本酒カクテルが販売され始めました。また日本酒を「混ぜる」「割る」ということに積極的でないはずの日本酒の酒蔵のいくつかがチームを組み、日本酒カクテル専用の酒「基酒(もとざけ)」を造り始めました。

 私たち1大学1ゼミが半年に1度2種類のカクテルを開発し、イベントで発表していくより、はるかに効率的・効果的な動きが本格化しはじめたのです。こうして私たちの目的はほどなく達せられることとなりました。

 そこでそれからは、先に述べた、研究室と地域との連携プロジェクトの趣旨を日本酒文化発信の趣旨に合わせて、新しい分野を切り開くこととしました。それが「ご当地カクテル」プロジェクトです。

 具体的には、地方自治体と提携し、その地域の地酒をベースとし、その地域の誇れる食材を使用して、その地域ならではの「ご当地カクテル」を開発するということです。色合いや味付けを都市部の若い女性が好むものとし、食材の歴史、地域の由緒などを調べ、それを一言で表せる言葉でカクテルを名付けます。また、そうしたことをストーリー化し、地酒祭りのブースにてパネルとして展示し、学生が来場者にうんちくを語ることとしました。これら味、色、名前、ストーリーをもって、提携した地域の魅力を来場者に伝えようというわけです。

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
「十日町カクテル」の1つ、「新緑-ami-」

 開発第1号は、新潟県十日町市と提携して開発した「十日町カクテル」2種「ヴィヴィアナ」と「新緑-ami-」です。数ある十日町市の名産品のうち、春限定の人参「雪下人参」乃ジュースと魚沼酒造の日本酒「天神囃子」を使ってつくり上げたのが、「ヴィヴィアナ」です。「ヴィヴィアナ」とはイタリア語で「元気いっぱい」という意味があります。長く厳しい冬の寒さにめげず、雪の下で甘みを蓄える雪下人参の生命力にあやかり、飲めばエネルギーがあふれ出るようにと願いを込めています。

 他方で、「新緑-ami-」は、日本酒に牛乳とこくわジャムを合わせたカクテルです。「こくわ」は十日町市の名産品で、キウイに似た食感の栄養価が高い果実です。日本酒は松乃井酒造場の純米吟醸「松乃井」を使用しました。味はもちろん、カクテルの見た目にもこだわりました。十日町市松之山にある景勝地であるブナ林「美人林(びじんばやし)」をイメージし、白い靄(もや)のなかに新緑萌える林が広がるような、緑と白の対比が美しいカクテルに仕上げました。

 これらを、2015年4月に開催された「地酒祭春の陣」(SSI・FBO主催)のブースにて提供したところ、全国の酒蔵の酒を求めてやってきた来場者にとっては予想外のものであったようで、多くの方々が興味津々にブースを訪れてくれました。年配の男性については「甘すぎる」という声が多く、決して好評とはいえませんでしたが、女性については若い女性だけでなく中高年の方も「おいしい」といってくださる方がおり、また、たとえ来場者が試飲しな場合でも、「十日町カクテル」のストーリーと目的をお話しすると、十日町と地方創生、そして日本酒カクテルという存在について話の花がひとしきり開いていたので、「ご当地カクテル」の所期の目的、すなわち地域の存在とその魅力の発信については、これをかなり果たせたということができるでしょう。

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
カクテル作成に質問への応対と大わらわの学生

 こうして「ご当地カクテル」第1号がなかなかの成功ぶりをみせたので、以降も地酒祭り1回にあたり、1つか2つの自治体と提携し、最大4種類のカクテルを提供するというペースを続けることにしました。 

 「十日町カクテル」に続いて発表したのは、静岡県伊豆市および福井県若狭町と提携して開発した、「伊豆カクテル」2種「サプライ酢」「甘夏の恋人」と「若狭カクテル」2種「Umany」「MIKATA五胡」です。 

 「サプライ酢」は、「巨峰」のふるさと、中伊豆のワイナリーでぶどうから造った酢を加えた伊豆の地酒に生クリームを乗せて、ふわっとした口当たりが楽しめるものですが、一口飲むとそのインパクトに驚く(ついでに、中伊豆があの有名な品種「巨峰」のふるさとだったのかと驚く)というので「サプライズ」にかけて命名されました。「甘夏の恋人」は、恋人岬、駿河湾に沈む夕陽の町をアピールしている土肥町のみかんシロップを使用して夕陽のロマンチックな世界をグラスいっぱいに表現したものです。

 一方、「Umany(ウメニー)」は、地酒の若狭自慢と梅サイダーに希少価値の高い紅映梅(べにさしうめ)を刻んで合わせることで、とにかく梅の魅力を伝えるカクテルであり、「MIKATA五湖」は梅シロップと梅の実を丸ごと1個加え、日本酒ゼリーで三方五湖の澄んだ水を表現したものです。

 以降、新潟県長岡市栃尾地区の秋葉神社(全国の秋葉神社の源流といわれる)とナツハゼという特産品をアピールする「栃尾カクテル」「秋葉の焔」「栃尾の秋をあがらっしゃい」や、忍者の町、三重県伊賀市と提携し、忍者はもちろん、伊賀生まれの松尾芭蕉や観阿弥をアピールするための「伊賀カクテル」4種「いちじくの一カクテル」「どんでん返し」「芭蕉さんカクテル」「梨幽玄」、熊本県の震災復興を支援する目的を込めた「熊本カクテル」「きばるばい熊本」「清正カクテル蛇~ん」、住民の幸福度が高く、また丸岡城主の「一筆啓上」から始まる日本一短い手紙で知られる福井県坂井市をアピールする「坂井カクテル」「大地讃頌」「父からの手紙」などを開発し、発表してきました。

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
伊賀カクテルの1つ、「梨幽玄」のPOP

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