「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて

宮田安彦大妻女子大学家政学部ライフデザイン学科教授

2017.10.04

「ご当地カクテル」を通して築かれる、地方と大学のWIN-WINの関係

 こうした活動は、すでに述べたように、大学と地方ともにメリットのあるものとなっています。再度申し上げると、スイーツのトレンドなど、大都会の食の消費動向に対して大きなアンテナを張っている都市部の女子大学生のもつ情報と彼女ら自身の若い女性としての好みを反映させることで、地方に居ながらにしてはなかなかリアルに収集することのできないマーケティング情報やアイデアを提供するという面で、非力ではあるものの提携先の地域振興に貢献しているものと思われます。

 他方で、私の研究室のゼミ生の多くが都市部で生まれ育った学生であり、日本の生活文化の多様性、地域ごとの独自性を体感する機会がないため、プロジェクトに参加した彼女らにとっては、ご当地カクテルの食材の選択の過程で何種類もの食材を食べたり飲んだりすることや、コンセプトやストーリーを作るため提携先の地域の歴史や文化を調べることは、これからの日本人のライフスタイルのあり方を考える上で貴重な学習の機会になっているといえます。もちろんゼミ生の中には地方出身者もいますが、この活動により出身地の地域アイデンティティについてより敏感になると思われます。また、「ご当地カクテル」を生み出すためのコンセプトワークは、地域振興活動に必要な企画の縮小版であり、そうした活動の「お試し」効果があると思われます。

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
「ご当地カクテル」プロジェクトにおける地域と研究室のwin-win関係

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
「伊賀忍者bar」にて「伊賀カクテル」を提供

「ご当地カクテル」の発展形

 でき上がった「ご当地カクテル」は、地酒祭りに出品し、提供されて一段落終了ですが、これだけで終わってしまうのは、地域のPRとしてはずいぶんと弱いものですから、開発したカクテルのレシピは、提携した自治体において自由に使っていただいても構わない(商業目的を除く)ものとして、その後の自治体の観光政策において「ご当地カクテル」を有効活用していただくことを期待しています。

 そうした有効活用の一例が、自治体が都市部で開催する地域PRのためのイベントでの提供です。私も、提携先とはカクテルの開発終了後もなるべく関係を維持したいと考えており、イベント時のサポートという形であればそれがやりやすいと考えています。

 例えば、三重県伊賀市は毎年11月末の数日間、上野恩賜公園で「忍者フェスタ」(主催者発表によると来場者20万人)を開催していますが、昨年は「伊賀カクテル」を開発したゼミ生が忍者に扮して、その販売に協力しました。当日はアトラクションで忍者ショーがあり、また各種忍者グッズなども販売されていて、忍者のアピールは十分だろうと思いますが、「芭蕉さんカクテル」「梨幽玄」は、松尾芭蕉や観阿弥といった歴史上の人物、また白鳳梨、伊賀茶といった食材など、忍者以外の伊賀の資源の存在をアピールしたりすることに一役買ったと思われます。

 また、熊本県と提携して開発した「熊本カクテル」については、2017年2月に開催された「くまもんクルーズ2017」において、ゼミ生がボランティアとして東京湾を一周するシンフォニークルーズに乗り込み、船内でくまもんのファンのために2種類のカクテルを提供し、好評を博しました。特に、「熊本カクテル」では清酒ではなく赤酒(清酒の製造方法とは異なる古来の酒の製法による灰持酒)を使用したため、くまもんファンが、熊本がそうした伝統を保持していることについて目を開かれたという点において、貢献度が高かったのではないかと思われます。

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
 東京湾クルーズ船「シンフォニークルーズ」

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
 船内で熊本カクテルを提供する様子

 他方で、「ご当地カクテル」が、イベントなどで一時的に提供することを超えて、常時提供される形にまで発展するのはなかなか困難な模様ですが、福井県若狭町と提携して開発した「Umany(ウメニー)」は、別件で学生が開発したおつまみの1つ「そばふらい」とともにJR福井駅近くにある福井市観光物産館「福福(ふくぶく)館」の中にある「福福茶屋」において2016年11月から提供され始め、福井駅に降り立った観光客に対し、若狭の梅と梅酒の存在をアピールする役割を担っています。

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