「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて

宮田安彦大妻女子大学家政学部ライフデザイン学科教授

2017.10.04

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
大妻女子大学の宮田ゼミ生と宮田教授 2015年に開催された「地酒祭り秋の陣」にて

 現在、私の研究室では、ゼミ生を中心に「“和の暮らし”推進プロジェクト」を立ち上げ、テーマごとにプロジェクトチームを編成して、地方自治体や企業と連携事業を行っています。今回は、その中でも「日本酒文化発信プロジェクト」の中で開発したご当地カクテルをご紹介したいと思います。

連携プロジェクトの背景

 大妻女子大学家政学部のライフデザイン学科は、経済成長に頼らずに「生活の質」を高めるという「成熟社会」にふさわしいライフスタイルのあり方を探り、実践することを理念とした教育を行っています。そこには、これまでの大量生産・大量消費を旨とする20世紀工業型社会で築かれたライフスタイルを見直し、これを作り直すという意味が含まれています。

 その中で、私はライフマネジメント(生活経営学)研究室を運営しており、ライフスタイルに関わるいろいろな問題を取り上げ、その具体的な対策を経営学的な発想によって構想する力を養うことをゼミナールの目標としています。

 そのためには学生がまず、現在のライフスタイルの全体的な問題を認識しておく必要があります。現在のライフスタイルは彼女らにとって空気のように当たり前であるため、過去との比較、海外との比較、都市-地方の比較などによって差異に気付くとともに、知識ばかりでなく体験を通してそれを認識することが望まれます。また大都市で生活する大学生のライフスタイルは新しいトレンドを追う消費生活に偏る嫌いがあります。

 他方で、風土に根差した生活文化をもつ地方の地域において、人口減少等により地域コミュニティの維持が困難になったり、チェーン店の進出等により、食文化や景観が都市部と変わらない形で均一化したり(三浦展はこうした風景の均一化をファストフードになぞらえて、「ファスト風土化」と名付けています)、地域の独自性を次第に失っていきつつあるようです。※三浦展(みうら・あつし)日本のマーケティングリサーチャー、消費社会研究家

 この両者の問題を、お互いに連携することによって相手にとっての利点に転じることができないかと考えて、十数年前からお試し程度に、そして数年前から本格的に地域との連携を開始しました。例えば、静岡県伊豆市(修善寺温泉、天城湯ヶ島温泉、土肥温泉などを保有)とは毎年観光振興をテーマとして連携していますが、その場合は、都市部に生活する女子大学生の嗜好、情報へのアンテナなどを地域に提供する代わりに、同市の風土に根差した食や景観その他の生活文化を学生に体験させていただくことで、WIN-WINの関係を確保しています。

日本酒文化推進プロジェクトの立ち上げ

 現在、日本酒は衰退の道をたどっており、ピーク時(1970年)には170万㎘近くの消費量があったものが、最近は60万㎘を割り込む状況で、1960年代終わりには3,300あった蔵(製造免許場)が、現在は半減しています。ここ数年で日本酒ブームといわれるような動きが起こり、純米酒、純米吟醸酒などが持ち直し、都市部において若い女性に認知されるようになったり、一部の熱烈なファンが増えたりといった現象が起こっていますが、こうした動きはまだ都市圏のものであり、地方にまで行き届いておらず、全体の趨勢(すうせい)はまだ明らかな反転とはいえない状態です。

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
酒類課税数量の推移 出典:国税庁「酒のしおり」

 長期的な日本酒の衰退傾向は、日本の食生活の洋風化もしくは多様化およびそれに伴うアルコール飲料の多様化などが挙げられますが、焼酎が1980年代から徐々に日本酒に代わって伸長し、2000年前後にブームとなったことの背景に、その経済性や悪酔いのしにくさなどがあることから推測すると、日本酒は割高であり、悪酔いしやすいというイメージがくっついているということも衰退の原因であると考えられます。

 実際に大学生や20代の若者に聞くと「日本酒は悪酔いする」「コンパの罰ゲームが日本酒だった」という回答が多く、こうした悪いイメージのあることが、アルコール自体の忌避傾向の強い若者に、さらに日本酒をとっつきにくくしている原因であると考えられます。

 他方で和食は、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、日本が誇る伝統的な食文化であることは内外で認識されています。そして、日本酒はその和食に合わせるために作られてきた「國酒」であるといってもよく、日本酒があることによって和食の味わいがより深くなるという関係が認められるでしょう。

 よって、和食の食材と日本酒のマリアージュを知らないことは、「生活の質」の重要な部分を占める豊かな食生活を味わう機会を逸することにつながるのではないかと懸念されます。そうすると、まずは若者の日本酒へのマイナスイメージを払しょくすることから始めることが必要ではないかと思い至りました。日本酒への抵抗感がなくなり、親しみを覚えさえすれば、その後は自ずと日本酒の世界に目覚めていくのではないかと考えたわけです。

 そこで、2014年、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)・料飲専門家団体連合会(FBO)と提携をし、助言を受けながら、純米酒をベースとし、若い女性が好むような味と見た目をもつ日本酒カクテルの開発を開始することにしました。

 ターゲットをOLなどの若い女性とし、食シーンを想像しながらコンセプトを固め、それにふさわしい味付けとネーミングを行い、完成したのが、「リスタート」と「エンジェルズシェア」でした。

 「リスタート」(純米酒+ライム+ペパーミント)は、もっとやせたい、もっと綺麗になりたい、もっとできる女になりたいなどと、何かと悩みの多い若い女性が、嫌なことはスカッと忘れて前向きになれるようにとの思いを込めたカクテルです。また、「エンジェルズシェア」(純米酒+牛乳+クリームカシス)は、誕生日や記念日に、相手にありがとうといえるような温かい気持ちになれるようにとの思いを込めて作ったカクテルです。

 開発したカクテルは、SSI・FBOが主催する「地酒祭り」(現在はJ-Style Sake)で特別のブースを設けて来場者に提供されました。

「ご当地カクテル」-日本酒の普及と地域振興の実現に向けて
2011年飯田橋エドモントホテルにて

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