街のゲストハウスが持つ、もうひとつの側面と地域での新しい役割 続「まちのゲストハウス考」

真野洋介東京工業大学環境・社会理工学院建築学系准教授

2017.09.27

街のゲストハウスが持つ、もうひとつの側面と地域での新しい役割 続「まちのゲストハウス考」
旅人や外国人だけでなく、移住者の入り口にもなっている長野市のゲストハウス「1166バックパッカーズ」

ゲストハウスの新たな一面:人の心を捉え、再び訪れるきっかけ

街のゲストハウスが持つ、もうひとつの側面と地域での新しい役割
旅人、宿のスタッフと地元の若い世代がほどよく交差する場所となっている、尾道のゲストハウス「あなごのねどこ」

 ゲストハウスでの滞在は、泊まって休んだり、キッチンやラウンジをシェアしたりするという、施設環境の利用の面だけでなく、別の宿泊者や宿のスタッフ、界隈の人々とのつながりやコミュニティを垣間見つつ、ひとときだけでもその場に参加できることが大きな魅力となっている。私が活動するNPOや、その仲間達が運営しているゲストハウス(尾道「あなごのねどこ」「みはらし亭」、岡山「とりいくぐる+ラウンジカド」など)もゲストハウス周辺がそうした交流の場(交差点)となっている光景をよく見かける。

 その場においては、ゲストハウスのオーナーや運営スタッフ、近所や宿泊の常連客との会話に含まれる人や場所とのつながりや、独自のスタイルによるもてなし方がある。また、場の一員として欠かせないような、リピーターや常連として定期的に訪れる客も増えてきている。また、お客さんからサポーターやヘルパーに、そこからさらに宿のスタッフや地域の居住者になるようなケースも出てきている。

 ローカルなゲストハウスでは、ゲストハウスに改修された建物のその街での履歴や、地場の材料などが内装やデザインに表現されていることが多く、近隣で解体された建物の廃材や家具のリユースの経緯なども含めて、建物と素材の輪廻転生のストーリーをたどれることも魅力のひとつである。

街のゲストハウスが持つ、もうひとつの側面と地域での新しい役割 続「まちのゲストハウス考」
西粟倉村で生産された材木の端材を活かした岡山奉還町「ラウンジ・カド」の壁面とサインのデザイン

地域に新しいフィールドを切り拓く足がかりとしてのゲストハウス

 メジャーな観光地や内外の観光客に人気の街であっても、実際その街を観光し、短期間で滞在する中で得られる体験の幅はそれほど多くない。むしろ観光地での体験は、スポットやコンテンツ、アクティビティのメニューなどに依存している場合が多いのではないだろうか。

 そうした中で、新しい体験の入り口としてのゲストハウスは、歴史的な街や見知らぬ土地での体験の幅を広げ、新たな領域を切り拓く可能性を持っている。街で最初にゲストハウスがつくられ、営まれる日々の中で、場所と人の新たなつながりは着実に広がっており、その街の新しいフェーズの始まりがもたらされる。

 岡山や長野など、一定の都市規模を持ち、周辺地域との交通や観光エリアの結節点に位置している地域では、街の時間の流れの中で、ゲストハウスは多様な場所の集積のひとつを担い、近隣の場所と合わせて、都市生活者の集う場と観光者の流動のクロスポイントになる。そこで生まれるコミュニティやネットワークも多方向に分散して広がる。

 一方、小さな街での新しい挑戦としてゲストハウスが開かれる場合は、運営者がローカルコミュニティの中で独自のポジションを持ち、宿泊者とのコミュニケーションもそのコミュニティへの意識が強く反映される。言い換えると、その街の奥行きの度合いによって、街の生活模様がより濃く映し出され、より濃密な体験の可能性が高まるのではないだろうか。そこでのゲストハウスは、険しい山(地域が長い時間をかけてつくりあげてきた強いつながりや場所とのしがらみなど)に挑戦するためのベースキャンプのような役割を持っている。

 こうしたひとつひとつの経験が各地で広がったり、つながったりしながら、地域と宿泊者の双方にもたらされるものが、ゲストハウスの新しい側面が示すものであり、広い意味での地域のソーシャル・キャピタル(社会的共通資本)の生成につながっていくのではないだろうか。

補注
1)ローカルなゲストハウスを紹介する媒体は、下記の2つが代表的なものである。
  guesthouse press(http://guesthousepress.jp
  Footprints(http://www.footprints-note.com
  雑誌・WEBマガジンでは、「ソトコト(木楽舎)」や「TURNS(第一プログレス)」
  「Colocal(http://colocal.jp)(マガジンハウス)」等で特集されることが多い。

2)本稿は以下の書籍における筆者の考察がベースとなっている。
  真野洋介、片岡八重子編著、「まちのゲストハウス考」、学芸出版社、2017年3月

著者プロフィール

真野洋介

真野洋介東京工業大学環境・社会理工学院建築学系准教授

東京工業大学環境・社会理工学院建築学系准教授。1971年生まれ、岡山県倉敷市出身。早稲田大学理工学部建築学科卒業同大学院博士課程修了、博士(工学)。東京理科大学助手等を経て現職。共著書に『まちづくり市民事業』(学芸出版社)、『復興まちづくりの時代』(建築資料研究社)、『まちづくり教書』(鹿島出版会)ほか。

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