街のゲストハウスが持つ、もうひとつの側面と地域での新しい役割 続「まちのゲストハウス考」

真野洋介東京工業大学環境・社会理工学院建築学系准教授

2017.09.27

ゲストハウスの増加現象

 この10年の間、ゲストハウスは増えつづけている。

 我が国には、観光地域の民宿や行商人が泊まる宿など、旅館業法や厚生労働省の統計などで「簡易宿所」に分類されるような宿は以前から相当数あり、長期のトレンドとしては減少傾向にあった。近年その傾向に歯止めをかけ、新たな増加を示しているのが通称「ゲストハウス」や「ホステル」と呼ばれる、主に個人の客をターゲットにした、ドミトリー形式や、客室や設備を共有するかたちの宿である。

 民宿や旅館の廃業が増える一方で、新たな簡易宿所の開業は、地域の偏在はあるものの、各地方においてじわじわと数を増やしている。これは、近年都市部で爆発的に増加している「Airbnb」などを含めた、統計に表れにくい民泊化現象に重なる部分と、独自の展開を示している部分の両方があると考えられる。

街のゲストハウスが持つ、もうひとつの側面と地域での新しい役割 続「まちのゲストハウス考」
近年の宿泊施設数の変遷と簡易宿所の地域別傾向 (2015年度の簡易宿所の割合が30%以上、かつ10年前に比べ件数が3割以上増加している地域と、2015年度の新規開業件数が80件以上の地域を抽出)

若い世代を中心とした旅の「滞在」の変化

 若い世代による国内旅行ブームの波は、これまでも幾度か起こってきた。

 1970年、当時の国鉄が始めた「ディスカバー・ジャパン」キャンペーン、紀行番組「遠くへ行きたい」の開始、創刊された女性雑誌「an・an/non-no」における街並み探訪特集などが、若い世代による個人旅行の最初の波を起こしたとされる。

 80年代後半からの、多くの日本人バックパッカーが海外を渡り歩く時代を経て、アジアや欧米の若者達が新手のバックパッカーとして、京都、大阪、東京の3都を起点に、さまざまなローカル都市へと足をのばしている光景が各地で見られるようになった。その背後には、台湾、韓国、中国など近隣諸国から地方空港への直行便やLCCの就航、直島や金沢など、国際的な集客力を持つ芸術拠点の集積、アニメーションや映像の聖地巡礼、伝統工芸やハイテクへの関心、歴史的資源の世界遺産認定など、多様な要因が挙げられるだろう。

 しかし、こうした大きな動向の影響も見られる反面、小さな動き(価値観にもとづく志向と行動)の集まりが、ローカルなゲストハウスの賑わいを支えている。ローカルなゲストハウスへの滞在を組み込んだ旅は、このようなこれまで起こった大きなツーリズムの波とは異なり、静かな波かもしれない。日常と非日常の間を絶妙に保った滞在場所であるゲストハウスそのものが、旅の目的地になる場合もある。

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