人と人、地域をつなぎ新しい価値をつくりだすNPO法人地域情報化モデル研究会

米田剛NPO法人地域情報化モデル研究会 代表理事

2016.06.16青森県

 青森県では、旅行者が車での周遊ルート計画を手軽に作成できる「Myルートガイド」をはじめ、県内の公共団体や企業、NPOなどが運営する地域のさまざまな観光情報サービスと連携する観光クラウドなど、先進の観光情報サービスの創出に取り組んでいる。

 観光クラウドは2012年に県内30の自治体の観光情報サイトやレンタカー会社で、県内の観光情報や「Myルートガイド」を共同利用する地域の観光情報連携プラットフォームとして確立し、県が保有する観光情報をオープンデータとして産業活用したモデルとしても注目されている。観光サイトやスマートフォンなどさまざまな観光情報サービスと連携することで、適時適所でのきめ細かな地元情報の提供や自由な周遊計画の支援など、着地での情報支援体制の整備により、点から線、線から面への旅行者の誘導を支援し、滞在時間や観光消費額の増加へと貢献している。

 この取り組みを牽引したのは青森県を拠点とするNPO法人地域情報化モデル研究会代表理事米田剛(まいた・つよし)さん。米田さんは富士通システムズ・イースト(青森オフィス)に勤務し、富士通で培った職能を生かして、ICTを活用した青森の活性化に公私ともに取り組んでいる。

 米田さんはどのようにしてICTを活用した観光振興モデルを作り上げたのか。その原点となるNPO法人地域情報化モデル研究会設立経緯やこれまでの活動、観光情報のオープンデータ化推進のために必要なことについて伺った。

地域愛を原動力に、本気で課題解決に取り組む

 米田さんは2007年に富士通東北システムズ(現在:富士通システムズ・イースト)のCSR活動として青森発の地域SNS「@ami’z(アミーズ)」(会員数約2,000人)を立ち上げた。
 地域SNSを運営することで感じたことは、SNSの中に閉じた交流だけでなく、ネット上で知り合った地域社会のさまざまな人と直に接して、創造的な関係づくりや地域課題を共有した上で取り組まなければ本当の価値につながらないということだった。

 そこで、短期決戦で結果が求められるビジネス活動とは別の枠組みとして、NPO法人地域情報化モデル研究会を設立し、ICTの知見を活用した社会貢献活動により地域社会との創造的なネットワークをつくる活動が始まった。

 NPO法人地域情報化モデル研究会は、プロボノ(職能を活かした社会貢献)活動団体というのが特徴で、職業上で培った専門的なスキルやそれぞれが持つリソース、ネットワークを持ち寄って、地域の現場の課題に対して、創造的な課題解決方法の糸口を見つけ、そこから新しいICT需要などの創出を図るという社会貢献と本業が循環するCSV活動として取り組んでいる。メンバーはIT企業の専門家、行政担当者など少数精鋭の有志で結成し、現在は11名で活動している。

 米田さんは青森発の地域SNS「@ami’z」のほかにも、地域の店舗、飲食店や体験施設など約600事業者が参加し、地域の旬な話題やお得な情報など参加事業者が直接発信できる場として地域情報サイト「ぷらなび」を立ち上げた。それと地域SNS「@ami’z」を連携させることで、地域の埋もれたお店の魅力を浮上させ、お店との地域住民の新たな交流を創る地域情報インフラの構築・運営も手がけてきた。

 そうした活動の中で、2008年に五所川原市金木地区で観光振興や地域経済活性化に取り組む、NPO法人かなぎ元気倶楽部の専務理事・伊藤一弘さんと出会った。

 同じころ青森県では、2009年には作家太宰治生誕百年、2010年には東北新幹線新青森駅開業という、まさに百年の一度の好機を迎え、県全体で観光誘客に力を入れていた。その観光戦略の核となるのが地域テーマパーク「太宰ミュージアム」の構想だ。これは太宰を育んだ有形無形の奥津軽の魅力をひとつの地域テーマパークに見立て「太宰ミュージアム」としてブランド化を進めるとともに、地元が保有する太宰情報や、太宰治を育んだ奥津軽の町並み、自然、歴史、文化、芸術など多彩な情報を発信することで、国内外の太宰治ファンと奥津軽をつなぎ観光誘客につなげるという構想である。その中心者の伊藤さんとともに、ICTの視点から米田さんが入り構想実現に加わった。

太宰治の生家「斜陽館」
太宰治の生家「斜陽館」

 米田さんは百年に一度にチャンスに恥じない他地域のレファレンスとなるような先進の情報発信モデルの実現を目指した。そのために青森県、五所川原市、商工団体や関係企業などに行脚したが、いくら良いことでも、ただ「やりましょう!」と言うだけでは誰も動いてくれない。まずは相手の置かれている状況や関心のある課題を理解し、実現したいビジョンとの相互Winとなる仕掛けを考え、それぞれの関係者ごとに個別の提案していった。無理強いをするのではなく、創造的な提案力で他人の協力を引き出し、それが集結して目指すビジョン実現に動いていく。米田さんはそういうやり方をしていった。

 そこに総務省の「地域ICT利活用モデル構築事業」の話が舞い込み、それまで積み重ねてきた構想について、一気に拍車がかかった。青森県、五所川原市、商工会、NPO法人かなぎ元気倶楽部、NPO法人地域情報化モデル研究会などが連携し、総務省の平成20年度「地域ICT利活用モデル構築事業」に見事採択され、その財源を活用して事業を進めることになった。

米田:
「一市民が地域活性化に取り組むには、等身大を超える取り組みとなってしまうものですが、それでも多くの人が賛同できる共通善となるビジョンを持ち、それをやり遂げようという使命感(ミッション)や熱意(パッション)が原動力にあれば、それが共鳴して、さまざまな人の協力を引き寄せるものです。どうしても協力して欲しい人がいても難しいことがありますよね。そういう時でも、他の人が説得してくれたり、みんなのためになると強く思っていると、いろんな応援者が登場してくるのが面白いですね。ただ、多くの人の力を借りることは非常に時間がかかるため、ビジネスで割りきったらできることではありません。それでもやれる、やろうと思うのはその地域への愛着と、それをやろうという仲間がそばにいるからだと思います」

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