近所で、旅先で、さらに自宅でも。 じわじわ高まるコケの人気。その理由とは?

藤井久子編集ライター、コケ愛好家

2017.04.28

地方のコケを楽しむコケトリップも人気

 さらにもうひとつ、コケの人気が高まっている大きな要因として、やはりここ10年ほどの間に、地元のコケを「土地の宝」と捉えて旅行者に紹介する観光地が増えてきたことが挙げられる。その代表格ともいえるのが、屋久島(鹿児島県)、北八ヶ岳(長野県)、奥入瀬渓流(青森県)だ。

 現地ではコケに詳しいガイドと森を歩くコケツアーがあり、ご当地コケ図鑑やオリジナルのコケグッズも充実しているとあって、コケ好きの間ではこの3か所は「コケの三大聖地」と呼ばれるほどの人気ぶりだ。四季折々のコケの表情を楽しみに、年に何度も訪れるリピーターも多いと聞く。

近所で、旅先で、さらに自宅でも。 じわじわ高まるコケの人気。その理由とは?
▲奥入瀬渓流のネイチャーツアー。コケを通じて現地の自然も堪能できる
(画像提供:NPO法人 奥入瀬自然観光資源研究会)

 また、苔庭の清掃活動が体験できる「苔の里」(石川県)や、世界で唯一のコケ専門の研究機関を見学できる「服部植物研究所」(宮崎県)などもディープなコケファンの憧れの地としてひそかな人気がある。

近所で、旅先で、さらに自宅でも。 じわじわ高まるコケの人気。その理由とは?
▲石川県小松市日用町の「苔の里」。コケが海原のように大地を覆う

 なお、このようなコケ観察を目的とした旅行を筆者は勝手に「コケトリップ」と呼んでいるのだが、国内にはまだまだコケの三大聖地のような充実したコケトリップができる可能性を秘めている場所があると期待している。

 というのも、四方を海に囲まれ、南北に細長い国土を持つ日本は、年間の降水量が多く、気候や地形の変化に富んでいることから、世界的に見てもコケが豊かな土地柄。日本各地にその土地の風土がつくりあげた、コケを含めた美しい自然景観がある。旅が好きな筆者としては、そのような景色の魅力に気づく地方がこれからも増えてくれると嬉しい。

園芸界の新風は「苔テラリウム」

 一方、従来のコケブームの牽引役だったコケ園芸にも、じつは新しい動きがある。それは、コケを使ったテラリウム「苔テラリウム」の登場だ。苔玉は素人にはコケの管理が難しいことが難点だったが、ガラス容器の中でコケを育てる苔テラリウムは、比較的管理も簡単で屋内で長くコケを楽しめる。さらに複数種のコケの寄せ植えができたり、石やフィギアを配置できたりと、箱庭を作るような楽しみ方ができるとあって、ここ数年でどんどんファンが増えているようだ。とくに都市部では苔テラリウムを作るワークショップが人気という。

近所で、旅先で、さらに自宅でも。 じわじわ高まるコケの人気。その理由とは?
▲LED照明器具付きの容器に入った苔テラリウム(画像提供:Mosslight-LED内野 敦明)

 そして、この新たなコケ園芸のニーズに呼応するかのように、最近では地方の耕作放棄地を活用してコケを栽培する企業も出てきた。これまでは、コケの調達先として山からコケを採ってきて販売する山採りが一般的であったが、採取禁止の土地からもコケが根こそぎ取られてしまうなど、コケの乱獲が大きな問題となっていた(いや、正確に言えば、心ない業者のせいで、いまもまだその問題は解決したとはとうてい言えないのが現状だ)。

 コケの群落は、林床の湿度を保ち、表土の流出を抑え、さらには他の草木が育つための苗床となるなど、山の健康を保つためには必要不可欠な存在。今後も園芸用のコケのニーズが増えていくとすれば、生態系を損なわないような取組みも同時に進めていくことが急務となるだろう。

リンク:かわいいコケブログ

著者プロフィール

藤井久子

藤井久子編集ライター、コケ愛好家

普段は主に食品関係の専門誌の編集・執筆を仕事とし、依頼があればコケに関する執筆や初心者向けのコケ観察会なども行っている。岡山コケの会会員、日本蘚苔類学会会員。著書に『コケはともだち』(リトルモア)、『知りたい 会いたい 特徴がよくわかるコケ図鑑』(家の光協会)。ブログ「かわいいコケブログ」http://blog.goo.ne.jp/bird0707

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