「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化

山本洋子酒食ジャーナリスト/地域食ブランドアドバイザー

2017.03.13鳥取県

「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化
蔵元の岡空社長と坪井杜氏。右から、妖怪ラベル。「蟹に合う酒」。力を入れる酒米「強力」の酒

地の米の酒で地の魚を。港の観光とつなげたい

 蟹のまち、境港で唯一の酒蔵が千代むすび酒造だ。蔵元の岡空晴夫さんは、「地元の米で醸した酒で、地の魚を楽しんでもらいたい。港の観光とつなげたい」と願い、魚専用の酒を企画した。まずはマグロ、次に「蟹に合う酒」に挑戦。

 蟹の卸や飲食業界人が結成した「ベニガニ有志の会」メンバーと蔵人たちで、蟹と酒のテイスティングを繰り返し、さらに県産業技術センターの味覚センサーで分析した。

「蟹の繊細な甘味とうま味を味わった後、スカッとするような味のキレを狙いました」と岡空さん。

「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化
千代むすび酒造は、観光の起点となる境港駅から徒歩1分。

「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化
蔵内にスタンディングバーとカフェ、売店を併設。2016年、駅前にホテルが誕生し、夜出歩く人が増加。夕食後の散策に、蔵に立ち寄る観光客も

 

妖怪の町境港が、食で人を呼ぶということ  

 境港は「ゲゲゲの鬼太郎」の作者、故水木しげるさんの出身地。妖怪をテーマにしたまちづくりで観光客を呼んでいる。
 境港駅から800m続く水木しげるロードには、妖怪のブロンズ像が立ち並ぶ。
 平成5年に23体で始まった像は、今や153体。市の人口の100倍にあたる、年間300万人以上の観光客が訪れる。

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境港の妖怪たち。マンホール、タクシー、交番、銀行、パンにも妖怪が。境港市観光ガイド

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境港駅前には、執筆中の水木先生と妖怪のブロンズ像が設置。列車を降りた観光客のほぼ全員が撮影する人気スポット

 千代むすび酒造の特徴は、鳥取県産の酒米で酒を醸すことにある。中でも霊峰大山の麓で見つかった原生種「強力」に力を入れる。「強力」は「山田錦」と同じく線状心白を持つ数少ない酒米で、大吟醸など高精米にも好適。精米歩合30%(70%削る)の純米大吟醸や、「強力60」「強力おおにごり」などの酒がある。

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霊峰大山を望む酒米・強力の田んぼ

「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化
強力を低温発酵させた「強力おおにごり」。微発泡しており、冷酒の上澄みを飲むも良し、瓶を振って白く濁らせて飲むも良し、また、お燗酒にしても良しと、三段階で楽しく味わえる

 〜日本全国に港があり、さまざまな魚介類が揚がるが、その中でも境港を選んでもらいたい。この港に来て、名物の魚たちを、もっとおいしく楽しく食べてもらいたい〜と、地元は願い続けてきた。

 妖怪だけでは、まちの主力産業の魚には、なかなか結びついてこなかった。

「蟹に合う酒」は地元の飲食店で提供される。商品は他地域には出さず、小売は蔵の売店のみ。世界唯一の酒名がついた酒は、観光客に人気の1本に。

「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化
食を地域と連携させて、強みにする。千代むすび酒造の「鮪に合う酒」と、新作「蟹に合う酒」どちらも300mlの飲みきりサイズで商品化。境港の海の名物を、地元産の米の酒でペアリング。境港をおいしく楽しく、印象づけたいと願いをこめる

「おいしい」以上の価値を伝える

 魚だけが良くても、酒だけが良くても特徴になりづらい。両者が互いの良さを引き立てることでうまさが増し、ひとつの魅力となる。

 商品設計は、地域をどう連携させていくかが鍵。

 米の発酵と海の産物が、テーブルで一緒になることで、楽しい会話が生まれていく。食べ方の提案が問われる時代なのだ。

 地域の酒米で醸した純米酒と、港の名物をマリアージュが“味わいの向こうに、地域を見える化”させる。大事なことは、おいしい以上の価値を伝えること。

 物作りのベースは、地域のお宝の価値を最大化することにある。

 海の旬や、田んぼ伝える米の酒。港の酒蔵の挑戦は始まったばかりだ。

「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化
何をどう選んでもらいたいか。つくり手からのシンプルなメッセージが功を奏す。ベースには地域をつなぐ背景があること。手を出してもらえない商品は、価値が伝わっていないということ。価値を共有したいのは観光客も同じ

(写真:山本洋子)

リンク:やまもとようこのマクロビーノライフ

    新日本酒紀行 地域を醸すもの

 

著者プロフィール

山本洋子

山本洋子酒食ジャーナリスト/地域食ブランドアドバイザー

鳥取県境港市・ゲゲゲの妖怪の町生まれ。出版社(株)オレンジページで「素食」「マクロビオティック」「郷土料理」「長寿食」「米の酒」をテーマにした編集長を経て、独立。
身土不二、一物全体を心がける食生活を提案し、「日本の米の価値を最大化するのは上質な純米酒」をモットーに「一日一合純米酒!」を提唱する。
地域食ブランドアドバイザー、純米酒セミナー講師、6次産業化セミナー講師、ジャーナリストとして全国へ。「感動と勇気を与える地方のお宝さがし」がライフワーク。
朝日カルチャーセンター新宿教室や、原宿OnJapanCafeで「楽しむ純米酒」講座を開講。週刊ダイヤモンド(株式会社ダイヤモンド社)で『新日本酒紀行 地域を醸すもの』http://dw.diamond.ne.jp/category/sakeを連載中。総務省地域人材ネット登録アドバイザー。

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