「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化

山本洋子酒食ジャーナリスト/地域食ブランドアドバイザー

2017.03.13鳥取県

その名物は「まち」を伝えているか?

 どのまちも名物づくりに躍起だが、トホホなものもある。
とある東北のまちで見つけた新名物が「たぬ中」だ。天ぷらのカス入り中華麺。なぜこれがまちの名物かと、由来を聞いた。何でも、今はなき食堂の人気メニューだったという。説明書きには「商工会女性部が試行錯誤の末に復活させた」とあった。

 懐かしの一品であろうが、まちの名物として前面に押し出すにはいかがなものか。
 惜しいのは、その名物の原材料が、地域の農産物と関連がないことだ。

 田んぼや畑、海や川とつながっていない名物は、がっかりする。地域外の人間がその土地で期待するのは、そのまち唯一であること。地域の背景、ストーリーを感じることにある。

「懐かしいメニュー」を地元民が愛することにまったく異論はないが、まちの名をつけて名物にするには寂しいものがある。その名物はまちを代表する顔なのか?  その地域は素晴らしい水質の湧水が至る所から湧き出る「水のまち」ゆえに、残念な気持ちになったのだ。

お皿の向こうに地域が見えること

「蟹に合う酒」 地域の酒米で醸した純米酒と港の名物のマリアージュが魅力を倍増! 味わいの向こうに、地域を見える化
今、人気の玄米ご飯は、もち米のようにもちもちとした強い粘りと甘さが特徴。玄米といってもボソボソでは駄目。驚くおいしさがキーワード

 日本の主食「米」。全国民が、子どものころから食べてきたご飯だが、田んぼが身近にない都会育ちの人には、米がどうできるのかを知らない人も多い。

 私が料理雑誌の編集をしていた時の話だ。
 玄米ご飯を紹介したところ、読者から「玄米を水で洗おうとしたら何かが浮かぶ」と相談の電話があった。感じの良い女性で真面目さが伝わる。玄米を初めて炊くという。
「たぶん、籾殻か何かが入ってしまったのだと思いますよ」と明るく答えると、「どうしたらいいでしょうか」と聞かれた。
「すくって捨てては、いかがでしょう?」
「わかりました」

 驚いた。だが確かに、白米しか見たことがない人だったら、浮いたものが何か想像がつかなかったのかもしれない。
 米に関して、知らない人は多い。白米そのものが稲に実ると思っていた人。玄米は白米と違う品種だと思っていた人。玄米は炊き込みご飯と思った人もいた。
  米がどのように育つのか、知らない人が多いのが現状だ。笑い事でも、嘆くことでもない。相手が知っていると思いこんでは、価値を伝えられない。

 地域のお宝である食材にどんな背景があるのか。
 いつから、誰が育てているのか?
 周りの自然環境はどんなところか?
 地域ではどう食べているのか?

 そんな食の背景が、瞬間的に浮かぶよう伝えることが重要だ。
 食材からは見えてこない、最も重要な「地域の背景」。
 その価値を伝えなければ、共感してもらえない。
 価値を認めてもらえなければ、安価となる。それでは先が続かない。

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