文化財における三次元データの活用 ―デジタルアンコール遺跡プロジェクト・バーチャル飛鳥京ツアーを事例に―
飛鳥京の姿を目の前の風景に重ね合わせ、バーチャル体験
のどかな田園風景が広がる奈良県明日香村は、7世紀の都・飛鳥京が置かれていた地域だ。今では田畑や野山が目の前に広がるこの場所で、MRを使ってかつての都を蘇らせ、体験する「バーチャル飛鳥京ツアー」が開かれている。
ここでは、タブレットやヘッドマウントディスプレイを使い歩きながら説明を受けるガイドツアーが実用化しているほか、バスに乗って移動しながらMRを体験するシステムも試行している。
まず参加者たちはスマホが取り付けられたヘッドセットを装着し、バスに乗り込む。バスが移動すると、左右に取り付けられた全周カメラが撮影するリアルタイムの映像が装着した人の顔の向きに対応して映し出される。その風景にCGで復元された飛鳥京の風景が目に入るという仕組みだ。音響も整合性を持たせて再生され、人物モデルによって歴史的出来事が再現される。
前方に全周カメラがついたバス
参加者はスマホ付きのヘッドセットを装着
飛鳥の田んぼ道を走っていくと、かつての飛鳥京の建物が見え、さらに蘇我入鹿の暗殺など事件の光景もドラマ風に鑑賞できるようになっている。こうした体験は教育の一環にもなり、さらに今後、コンテンツを拡充していけば、同じ場所であっても訪れるたびに新しい体験ができるようになるためリピーターも期待できる。
飛鳥京の事件をドラマ風に再現
こうした三次元データをもとに、訪ねてみたいと思わせるような情報を発信し、サイバー考古学等で新しいことを学び、現地を訪問して感動するような体験をしてもらい、SNSなどで三次元データ上に情報を載せてシェアすることで再訪を促すようなサイクルをつくるという考え方が「クラウドミュージアム」である。
動機付け、学習、訪問、感動のサイクルで再訪を促すクラウドミュージアム構想
建物などはCGや模型で再現することもできるが、MRは現地に立った目線でその大きさや風景をより実感できるのが利点である。
そのMRをよりリアルなものにしていくには、実世界と仮想世界の光源環境を一致させ、実世界と仮想世界の位置関係を正しく表示させる光学的・幾何学的整合性などの技術的課題を解決する必要がある。これらは研究レベルではクリアできていても、実用化までのハードルが高い。ベンチャー企業を中心に、実用化レベルまで高められることが今後期待される。
現在のCG、MRの技術ではまだ難しいが、長時間かけてレンダリングしている映画レベルのCGがリアルタイムで現地に重畳して写せるようになることも近い将来可能だろう。そうすれば、それだけで人を呼び込めるような強力な観光コンテンツになりうると考えられる。
資料:大石研究室
(インタビュー・構成/城市奈那)
■取材対象者プロフィール
1976年静岡県生まれ。1999年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業。2005年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。同大学院情報学環特任講師などを経て、2011年より現職。大仏、アンコール遺跡などの巨大構造物の3次元モデル化や解析、複合現実感技術による飛鳥京、平城京など失われた文化財の復元展示に関する研究に従事。
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