「農村ワーキングホリデー」が拓く農村再生の可能性

藤田武弘和歌山大学観光学部地域再生学科教授

2013.03.16長野県

参加者が増加する農村ワーキングホリデー

 ワーキングホリデーとは、一般に国際理解の促進を目的として、海外での休暇機会とその資金を補うために一時的な就労機会を与える制度を意味するが、ここでは、1998年から日本国内で始まった「農林業や農山村に関心を持つ都市住民が農村で人手が不足する繁忙期に農作業を手伝い、農林家が寝食を提供する仕組み」を指す。

 長野県飯田市に代表される「無償方式」と宮崎県西米良村に代表される「有償方式」があり、担い手不足に悩む多くの市町村で導入に向けた検討が開始されている。

 観光目的ではない「対等平等の関係に基づくパートナーシップ事業」と位置付けられた飯田市の農村ワーキングホリデーは、毎年春と秋に「3泊4日」のプログラムを各2回実施している。

 開始当初(1998年度)は32名であった参加者数は、2010年度には425名となり、受入窓口である飯田市役所が掌握する参加登録者数(2011年1月)は1,603名、受入農家数(同年)は107戸にまで成長した。

移住のお試し・見極めに

 ただし、登録者数の60%にも及ぶリピーターの多くは自ら直接に馴染みの農家と連絡を取り、プログラム実施期間中であるか否かを問わず来訪するため、実際に同市内で農作業(援農)に従事する都市住民はこれをさらに上回るとされている。

 参加者の年代については、「団塊世代」が大量に退職を迎えた2007年以降は「60歳代」の夫婦または男性の参加者が増加傾向にあるが、開始当初から最も多いのが「20から30歳代」の女性である。さらに、近年では「新規就農」志向が強いことも興味深い。

 飯田市のワーキングホリデーは、農業・農村に関心を持つ都会からの参加者に対して、移住に際しての“お試し機会(田舎暮らしに馴染めるか否かを判断する場)”を提供するとともに、受入側の地域住民に対しては“適性の見極め機会(受け入れても大丈夫かを判断する場)”を提供している。

 ワーキングホリデーへの参加を繰り返した後に同市に移住(就農)する場合、受入農家がいわば“里親”となって、移住者の住まいや農地の確保、さらには集落内での信用力を付与する役目を果たすという。

 田舎暮らしの理想と現実とのギャップに愕然とすることなく、移住者の定着率が極めて高い秘訣はここにある。

著者プロフィール

藤田武弘

藤田武弘和歌山大学観光学部地域再生学科教授

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