人と人がつくる地域おこし協力隊のしごと  鳥取県倉吉市関金地区

2016.06.01鳥取県

「手づくり文化祭」でアイデアを形に

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セキガネ温泉手作り文化祭 写真提供:倉吉市

 「地域おこし協力隊」という言葉を耳にする回数が増えている。地域おこし協力隊の業務の詳細は自治体ごとに決められ、観光を担当する隊員も多い。地域おこし協力隊の観光の取り組みにはどのようなものがあり、協力隊の特性がどう生かされているのだろうか。今回は鳥取県倉吉市関金地区の二人の地域おこし協力隊員が、地域住民や市とともに取り組んできた活動を紹介する。

 倉吉市関金地区では2013年7月に最初の地域おこし協力隊員西河葉子さんが着任した。そして2015年11月、新たに上所俊樹さんが着任し、現在は二人が活動している。

 倉吉市関金地区にある関金温泉は、奈良時代の開湯とも言われ、江戸中期の書物にもその名があるなど歴史は古い。無色無臭の湯は日本有数のラドン含有量を誇る。

共同浴場「関の湯」
関金温泉の共同浴場「関の湯」

 この10年余りで数軒の旅館が廃業した。その理由としては、後継者問題、旅行の主体が団体から個人へと変化したことのほか、

「昔から来ていた方が年を取って来られなくなり、客数が減っていきました」と、関金地区の住民有志による会「関金しゃあまけ笑会」会長の竺原(じくはら)淳博さんは話す。

関金しゃあまけ笑会の皆さん 左から地蔵院住職の九鬼清高さん、楠本知恵美さん、関金しゃあまけ笑会会長の竺原淳博さん、関金温泉旅館組合組合長の樋口稔起さん
関金しゃあまけ笑会の皆さん 左から地蔵院住職の九鬼清高さん、楠本知恵美さん、関金しゃあまけ笑会会長の竺原淳博さん、関金温泉旅館組合組合長の樋口稔起さん

 地域のランドマークだった旅館「温清楼」も、休業を経て2009年に廃業した。(※「温清楼」の清は、正式にはにすいに青)
 関金温泉旅館組合では平成25年度に、関金温泉の10年後を考えることをテーマに「関金温泉グランドデザイン検討会」を開催した。年間で15回行い、住民の参加者は延べ600人に上った。

 ここに2013年7月から加わったのが、地域おこし協力隊員となった西河さんだ。関金温泉旅館組合と倉吉市が協力し、地域おこし協力隊員を「関金温泉若女将」と銘打って募集した。

「検討会に入ってもらい、住民の方と一緒に計画を練り上げようと考えていたようです」と倉吉市観光交流課の担当職員は話す。首都圏などでもPRを行った。

 これに応募した一人が西河さんだ。京都府出身で、大阪の建築関係の会社でマーケティングの仕事をしていた。

西河
「ゆくゆくは起業して、地域のものや『本物』だと思うものを集めたお店で、その場所のリアルなことを伝える仕事ができればと考えていました。そのきっかけとして、地元のことを地元の方に教えてほしかったので、地域おこし協力隊の制度はぴったりでした」

 関金と直接の縁はなかったが、鳥取県の友達のところで見る景色や会う人との会話を「何よりのご褒美」と感じていたという。

西河
「関西で仕事をしていると、会社のメリットや上司の意向など、他人軸で生きている感じがしていましたが、もっと自分がリラックスできる場所で夢を実現したいと、思い切って会社を辞めてきました」

 着任し、グランドデザイン検討会に参加すると、すでに住民がさまざまなアイデアを出していた。しかし、実現の道筋は立っていなかった。「せっかくいいアイデアがあるので、実現する方法を、こんなのはどうですかと話してみました」。関金しゃあまけ笑会の楠本知恵美さんは西河さんの参加について「光のようでした。これで関金温泉が変わるんじゃないかと思いました」と話す。

 西河さんが話したことの一つが「まちの文化祭」だ。

西河
「さまざまな情報を見る中で、街道沿いで「まちの文化祭」のような形でアイデアを実現してはどうかと考えました。アイデアがどう人を呼ぶかなどが見えてくるのではないかと思い、ちらっと話すと、皆さんから何倍もすごいアイデアが返ってきました」

 西河さんは、できる範囲で「まずやってみよう」と方針を定め、発信し続けた。出店者集め、ポスターやチラシの作成など、西河さんのリードに住民も協力し、準備が進んだ。

 前夜祭のイベントが提案されると、関金温泉にある地蔵院の住職がすぐに場所の提供を申し出た。境内でコンサートを開催し、「病みつきになったというわけじゃないけど、次の年も太鼓のイベントをやったよ」と住職の九鬼清高さん。西河さんは「住民の方々がこうやって一緒に楽しんでくれる地域は少ないようです。とりあえずアイデアを聞いてくれます」と話す。

2013年第1回セキガネ温泉手づくり文化祭を開催

 2013年10月、第1回セキガネ温泉手づくり文化祭が開催された。地域の飲食店などの事業者や学生、旅館組合などさまざまな人が、関金温泉の通り沿いに出店した。さらに地元の学生がボランティアとして参加した。また温清楼の露天風呂を足湯として無料開放したところ、満席が続き、根強い人気をうかがわせた。

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文化祭での足湯のイベント 写真提供:関金しゃあまけ笑会

 関金地区の内外から若い人、家族連れ、祖父母と孫など、幅広い世代の1,000人を超える客が訪れ、住民からは「こんなに人が集まったのは久しぶり」「関金も捨てたもんじゃない」という声が聞かれたという。文化祭はその後も毎年開かれており、昨年10月には2,000人近い人が集まった。

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