再生の最前線、東北を訪れるという応援

宮原育子宮城大学事業構想学部事業計画学科教授

2016.03.01宮城県

多様化する受け入れプログラム

 観光客に向けた取り組みも、震災直後の語り部ツアーから多様化してきている。

 宮城県の南三陸町観光協会では、2015年10月に従来の観光から一歩進んだツアープログラムを発売した。その名も「防災キャンプそなえ」という、自分たちが被災し避難所で過ごした経験を観光客に追体験してもらうプログラムである。
 1泊2日のプログラムでは、観光中の「地震発生」から、避難所の開設と避難者の対応のシミュレーションを行い、暗い避難所での食事づくりや体験者とのディスカッションなどが盛り込まれ、参加者は戸惑いや、いら立ち、安堵など震災当時の感情も疑似体験をすることができる。
 かなりハードなプログラムではあるが、観光協会では、自分たちでしか提供できないプログラムをつくり、他の地域の防災に役立てたいと考えている。

 このほか、宮城県石巻市では、ボランティアに来ていた若者たちが移住をして、カフェやショップを開き、町内外の人々との交流も盛んになってきている。こうした取り組みは、地域に新しい風をもたらし、交流だけでなく定住に向けた動きを生み出している。

宮城県南三陸町 Yes工房  震災後は住民の手によって観光客向けのお土産品が開発されている
宮城県南三陸町 Yes工房 震災後は住民の手によって観光客向けのお土産品が開発されている

宮城県南三陸町 Yes工房  震災後は住民の手によって観光客向けのお土産品が開発されている

外国人観光客の誘致に向けて

 最後に、今後も東北の観光で課題になるのは、福島の原発事故の影響で激減した外国人観光客数の回復への取り組みである。

 首都圏と西日本を中心に外国人観光客の来訪ラッシュであるが、東北全体では震災前に比べて6割ほどの戻りである。
 この問題は東北の観光関係者だけでの解決は難しく、今後も政府と一体となって正確な情報提供や誘致の取り組みが必要だと考える。

 東北はこれから美しい桜がゆっくりと豊かに花開く。東北はどの季節にも海と山からの豊かな食と丁寧に醸された酒を楽しむことができる。皆さんには、震災後6年目に入る東北各地を観光しながら、引き続き地域の人々を応援していただきたい。

著者プロフィール

宮原育子

宮原育子宮城大学事業構想学部事業計画学科教授

東京大学大学院理学系研究科地理学専攻博士課程修了。株式会社日本旅行勤務、宮城大学大学院事業構想学研究科准教授などを経て現職。専門分野は地理学、地域資源論、観光交流、ジオパーク。

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