観光による社会参加の時代

敷田麻実北海道大学観光学高等研究センター教授

2011.09.01

震災で注目されるボランティアツアー

 3月11日の震災以降、多くの関心が東北と関東地方の被災地に寄せられている。
 現地の惨状は目を覆うばかりだが、震災をきっかけに、原子力発電への依存も含めた今までの生活のあり方や経済的な繁栄、ひいては幸福や人生について見直しはじめた人は多い。被災地の住民だけの問題ではなく、震災がこの時代に生きる私たちに突き付けたものは大きかった。

 しかし、震災の影響を受けるだけに甘んじてもいられない。被災地ばかりではなく、直接の被害がなかった地域でも観光への影響は深刻で、各地で観光客が激減している。

 その回復は急務だが、過去のSARS禍や9.11テロの現象と同じく、地域外からの大きな変化に対して地域が迫られる対応は、地域だけの努力でどの程度復興できるのかも含め、難しい問題である。

 震災復興の視点で考えた場合、観光業の回復も重要だが、今回の震災で観光として注目すべきは、「ボランティアツアー」である。それは、日経MJの「2011年上期ヒット商品番付」で上位にあがったほど注目を集めている。

消費ではなく生産に寄与する観光

 ボランティアツーリズムは「日常生活圏を離れた組織的なボランティア活動」であり、被災地を直接支援できる観光である。

 ツアーである以上は「旅行」なのだが、参加者には観光客の自覚がない。彼らはツアーに参加していながら「観光している」という意識を持たない。観光客でありながら、ボランティアというアイデンティティを持つのだ。この観光は、被災地支援という活動に参加する人々に応える、社会性の高い活動に変化している。

 ボランティアツーリズムは、「消費する観光資源が必要」という、これまでの観光の常識をも揺るがせる。ボランティアツーリストは地域の観光資源の「消費者」ではなく、被災地の再生に寄与する「生産者」である。観光は「余暇活動」で、生産は「労働」だったはずだが、「消費に喜びを見いだす」はずの観光が、生産に寄与するのだ。

 ボランティアツーリズムが示唆しているのは、「社会参加手段としての観光」である。職場での労働と生産は社会参加で、消費による個人の息抜きは余暇であるという既成概念を否定し、余暇活動である観光を通した社会参加もあり得ると認識する。
 ボランティアツーリストたちは、その境界を越えた存在であり、観光することで社会参加する「時代の先駆者」である。

著者プロフィール

敷田麻実

敷田麻実北海道大学観光学高等研究センター教授

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