生き残るための顧客価値創造型観光地を目指して

桑田政美京都嵯峨芸術大学芸術学部デザイン学科教授

2012.10.01

 着地型観光が近年地域の重要な観光振興策として定着した感がある。地域自らが観光資源を発掘し、磨き、消費者のニーズである地域の文化や人々との触れ合いや参加体験など、地域の魅力を地域が主体となって商品造成を行い販売し、地域が責任を持ってサービスを提供するという消費者視点に立った観光である。

 しかしその魅力とは裏腹に集客面、企画面での課題は多く、安易な考えでインターネットでの発信で集客ができるとか、体験メニューの自らの過大評価、マンネリ化など客観的な視点での見方が足りないケースが多くみられる。

 観光客は訪れようとする観光地や旅館の情報をネットなどで調べた上でやってくる。受入側は名前くらいしか事前情報はない。これが当たり前のことなのだろうか。「お客さま」ではなく「○△さん」の滞在中の行動シナリオを描くことができるだろうか。顧客価値創造型観光地とは、それができる観光地になるということである。

 受入側と観光客との価値についてのリレーションシップ・ギャップをなくすプロセスが必要となる。提供する価値について事前に理解を促し、また訪れる観光客の求める価値について早い段階から入手する手立てを講じなければならない。

 特に重要なのは旅行終了後のフォローである。観光客が受入地を出た途端に契約終了とばかりに関係が打ち切られてしまう。旅行プロセスとしては一つのゴールではあるが、継続へのスタートとしてこの機会を捉えることができる観光地が生き残っていくことができるのである(もちろん新しい観光地へと進化しないで顧客満足の追求に全力をささげながら生き残ることも選択肢の一つである)。

 これまでの観光地はマスツーリズムの受入地として旅行商品ありきであった。現在の観光地は着地型観光で他地域との差別化を計ることに苦心しているのが現状であり、消費者志向で観光客を満足させつなぎとめることが主となっている。

 これから生き残る観光地は人間志向・価値主導であり、住民及び観光客にとって地域をよりよい場所にすることを目的とする。

 地域のビジョンなどを含めた価値を観光客と共有することによって一体感を醸成し(=顧客化)、その顧客にとっての精神的な価値を創造することが求められる。今まで観光客が「何を(することを)求めているか」が課題であったのに対し、これからの観光地に求められるのは「何を(得ること=価値を)求めているか」に対応することなのである。

著者プロフィール

桑田政美

桑田政美京都嵯峨芸術大学芸術学部デザイン学科教授

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