ゲストハウスから始まるもてなしのまち ゲストハウス「蔵」(長野県須坂市)
まち全体で一つのおもてなし
近隣の飲食店を利用する宿泊客
山上さんは宿場JAPANでの経験を生かし、開業前からまちの人との関係を築いてきた。
山上:外国人が行きそうな近隣の飲食店には、挨拶にまわったり、英語メニューを作らせてもらったりしていました。おかげでゲストを紹介しても、とても快く受け入れてくださるところがほとんどで、これまでトラブルは起きていません。私が思っていた以上によくしてくださる方ばかりです。
オープニングイベントでは、近所の人全員に招待状を送った。
山上:ゲストハウスや相部屋の想像がつかない年代の方だと思うので、こんな部屋で、若者や海外の人はこういうところで安く旅をしていると知ってほしかったんです。間取りを全然変えていなかったので、きれいにすればこんな風になるんだねとご近所さんに喜んでもらえました。
来場者は50人くらいの予定でしたが、実際には150人くらい来てくれました。
外国人ゲストに昨夜どこに泊まったのか聞いても、まちも宿の名前も覚えていないことがあると山上さんは話す。
山上:だから、口コミサイトで「須坂の夜は楽しかった」などと、須坂のまちをほめてもらえると嬉しいです。ゲストハウスは宿泊部門だけで、食べるのも遊ぶのも買い物も、どんどんまちに出てもらい、まち全体で一つのおもてなしをするのが理想です。
ゲストハウス蔵を訪れるゲストを見て、まちも動き始めた。
山上:美術館で英語表記を始めたり、地図を改定するときに英語も入れたりして、外国人観光客を意識してくださっています。ただ外国人ゲストにとっては、まちで出会う人が、いちばんの須坂の魅力なのではないかと思っています。
最後に、これからやってみたいことをうかがった。
山上:ワーキングホリデーで長期滞在する人の日本への入り口として、須坂はとてもいいのではと思っています。外国人は家を借りるときに保証人が必要ですが、なかなか見つからないと思うので、まずは宿に泊まってもらう。そして日本語ができないと仕事が見つからないので、1週間から1カ月くらいここにいて、日本語を勉強しながら、農業を手伝ってゆっくり生活する。自信がついたら大都市に行けばいい。
そうしたステップとして須坂を位置づけられたらと思います。課題は仕事の紹介で、農業をしている方と相談をし始めたところです。短期的な仕事を常に紹介できるようになれば、このプログラムは成功するのではと思います。
ゲストを迎える水仙の花
ゲストハウスが地域の人の、観光の流れを変える。須坂ではそれが起こっていると感じる。「ゲストハウス蔵」がその流れを作り出せた理由の一つは、「ゲストハウス蔵」の魅力、それをつくりだす山上さんの魅力だ。長野市から「スノーモンキー」に向かうこともできるが、多くのゲストがわざわざ須坂で泊まっていく。そしてもう一つの理由は、まちの人が外国人観光客を温かく迎えているところにある。背景には山上さんの努力があるが、「住民が暮らしやすければいい」という意識がまちに強ければ、これほど温かく迎えられなかっただろう。
ゲストハウスと地域、双方が努力すれば、地域の観光は変えられる。全国に増えるゲストハウスは、地域の人の流れを変え、まちづくりや観光を変える可能性を秘めているのだ。
(インタビュー・文/青木 遥)
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