ルーラル・ツーリズムの近年の傾向

山田耕生帝京大学経済学部地域経済学科講師

2012.10.16

多様化するルーラル・ツーリズム

 高度経済成長期からのレジャーの大衆化は、日本の農村における観光需要の拡大をもたらした。観光農園や自然休養村、民宿などが各地で増加し、都市住民は農村に出かけ、多様なレクリエーションを楽しむようになった。以降、今日に至るまで、日本の農村ではさまざまなルーラル・ツーリズムが展開されてきた。

 ルーラル・ツーリズムとは、「農村を舞台に、地域資源を活用し、余暇活動を行うこと」と定義され、イギリスやドイツなど、ヨーロッパで用いられてきた用語である。

 日本の場合、農業体験や農家民宿への宿泊などのいわゆるグリーン・ツーリズムや、都市住民が農村住民と交流し、地域の伝統文化を学んだり、郷土料理を味わうといった「都市農村交流」がそれに当たる。それだけではなく、ルーラル・ツーリズムには自然観察やハイキング、釣りなどのレクリエーション活動も含まれる。

 ルーラル・ツーリズムは地域活性化の手段として、とりわけバブル崩壊以降の1990年代から志向されるようになった。現在までの約20年間で多くの地域に広がり、その内容も多様化してきた。

 90年代は農山漁村余暇法が施行されたこともあり、農家民宿での宿泊を通した農業体験などの「グリーン・ツーリズム」が急速に広まった。2000年代に入ると、北海道でのファーム・ステイや沖縄県での民泊など、それまでの「グリーン・ツーリズム」の枠を超えたルーラル・ツーリズムが各地で見られるようになった。

ツーリズムを持続させるには

 ルーラル・ツーリズムの多様化のなかで、これまで一貫して農村が持つ伝統文化や風習、食文化、農村景観などの価値への評価は高まってきている。農村空間を舞台にした芸術祭である新潟県の越後妻有アートトリエンナーレは、開催ごとに注目度を増している。

 筆者が2010年にルーラル・ツーリズムを目的に来訪する観光客に対して行ったアンケート調査では、ルーラル・ツーリズムに求める点として、「周囲の豊かな自然環境」や「ゆっくり、のんびり滞在すること」が上位に挙がっている。農村だからと言って「農業」にこだわらず、来訪者が着の身着のままに農村空間の過ごし方を楽しむのが今日のルーラル・ツーリズムのスタイルになっている。

 見過ごしてはいけないのは、全国の農村においてルーラル・ツーリズムが広まったものの、過疎化、農村景観の崩壊は進み、農村の衰退は食い止められていない点である。特に、地域を支えるべき壮年期の人材が不足している。

 ルーラル・ツーリズムの楽しみを持続的に享受できるためにも、都市住民の側からも農村を支える方策が不可欠である。

著者プロフィール

山田耕生

山田耕生帝京大学経済学部地域経済学科講師

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