グリーン・ツーリズムと観光 対立から共存へ

青木辰司東洋大学社会学部社会学科教授

2013.12.01福島県

韓国と共催でフェアツーリズムに取り組む

 日本にグリーン・ツーリズム(以下GTと略)が誕生して21年が経過して、多様な実践が展開されている。しかし、教育旅行への過度の依存や、風評被害によるキャンセル等、成果とともに課題も多い。

 そうした中、今年開催された二つの大会で、示唆に富んだ議論がなされた。
 その一つは、フェアツーリズム(以下FTと略)国際大会(大分県竹田市で開催)である。昨年の韓国南海郡での開催に続いて、日韓両国から100名以上が参加し、国際交流における言語・食・文化理解、大学の社会貢献とツーリズム、地域資源活用、情報発信の国際化とツアー企画、農村定住というテーマに分かれ、交流と議論が交わされた。

 極端な大都市化による、農山漁村の過疎化・高齢化が急進する韓国で、その解決法として近年注目を浴びているのが、FTである。

 これまでの体験型のGTにおいては、顧客の質に目を配るゆとりはない。しかし、韓国では、子ども達が体験後に感謝の朝掃除をしたり、記念植樹等の「恩返し」が旅行企画に試みられており、対等な交流が求められている。

 大会では、日韓のGTの実践理念が共有され、継続的な国際大会開催や、アジアの人材育成を恒常的に行う機関の設置を盛り込んだ、大会共同宣言が採択された。
 その中で、FTとは、公正旅交から公正歓交へ発展を図る、新たな人間・社会関係づくりの理念と定義された。ゲストとホスト、それらを繋ぐ中間支援組織が、貴重な環境や歴史的文化を保全活用し、各々の経済的利益と社会的評価を公正に分かち合い、均衡のとれた関係を形成すること、その実現のために地域づくりを目指すことが明記されたのである。

グリーン・ツーリズムの意義を考える

 これによって、GTやET等、類似のツーリズムや新たな観光に通じる、持続可能性の確保の基本的な原則が明示された。

 国際化が進むGTは、価値や感動を共有するためのツアー企画の工夫や、ゲストの倫理性の向上、ホストのホスピタリティの熟成、中間支援組織のコーディネート力の向上が求められる。画一的な体験型GTからの脱却の糸口が、フェアネス(公正主義)の理念を活かすFTの理念の注入にあるといえる。

 また、今年11月中旬に開催された「第12回全国GTネットワーク福島大会」では、「ふくしまの今! つながろうGT」をテーマに、東日本大震災を転機としたGTの在り方について多様な議論が交わされた。

 その中で、震災による影響は、子どもを対象とした教育旅行に深刻に現われ、風評被害も首都圏や遠隔地の消費者に特化している事実が明らかになった。また震災直後には、GTで繋がった地域からの支援が迅速かつ適切に役立ち、日常的なネットワークの意義が再確認された。

 ともすれば大消費地のみに目を奪われるマーケティング。しかし確かな顧客はまずは地域内にいることや、子どもや遠隔地の消費者に偏った実践でない、バランスの取れた実践がいかに重要かを改めて認識させられた。原発の事後処理の途方もない作業とともに、被災地の生活者の除染現場には、除染後の汚染土が入った数多くの青い袋が山積みされていた。

 命と心を紡ぐGTの価値を再認識するとともに、現世代が次世代に何を反省し何を残すのか、心を痛める思いを形にする意味でも、GTの意義は大きい。

著者プロフィール

青木辰司

青木辰司東洋大学社会学部社会学科教授

スポンサードリンク