外国人向けまち歩きツアーの可能性と課題

松村嘉久新今宮観光インフォメーションセンター代表 阪南大学国際観光学部教授

2014.04.01大阪府

外国人向けまち歩きツアーが成立する要件

 完全なる着地型の外国人向けまち歩きツアーがビジネスとして存立するためには、特に目的も制約もなく、自由に観光行動を選択できる外国人旅行者がまとまった数で存在することが前提となる。
 加えて、その地域の情報が少なく、コンテクストが読み解きにくいほど存立しやすい。例えば、訪問目的が明確なテーマパークや京都や奈良のように、観光情報が豊富で不動の評価が確立している地域では、よほどの仕掛けがない限り、まち歩きツアーは存立し得ない。

 大阪の国際観光事情を見守ってきた経験から、私は大阪の三つの地域、ミナミの道頓堀、通天閣のある新世界、新今宮のゲストハウス街ならば、着地型の外国人向けまち歩きツアーが存立し得ると確信している。

 道頓堀と新世界は、いつ行っても、外国人旅行者が狭い地域を行き来している。どちらの地域もまちのコンテクストが複雑で変化も激しく、まちの人々とのコミュニケーションで魅力が増す。

 道頓堀ならば戎橋近くのとんぼりリバーウォークで、新世界ならば通天閣の下でツアー募集を行えば、平日でも確実に一定数の外国人が集まる。すでに外国人利用者の多い「とんぼりリバークルーズ」と絡めてツアーを行えば、相乗効果も期待できる。

 新世界の場合は、通天閣へ登るエレベーターの待ち時間と連動して1時間以内のツアーを組めば外国人だけでなく日本人からも喜ばれるであろう。

新今宮のゲストハウス街に何があるか

 新今宮のゲストハウス街は前2者とは違い、まち歩きツアーの目的地ではなくツアー募集の拠点に成長する可能性を秘めている。
 狭い地域にゲストハウスが集積する新今宮では、2013年に、そのうちのわずか8軒で外国人が延べ12.2万泊した。こうしたゲストハウスと協働すれば、新今宮を発着地とするさまざまなツアーを仕掛けられる。

 大阪では「大阪あそ歩」や「OSAKA旅めがね」が定着したが、いずれも外国人向けのプログラムはなく、外国人のツアー参加も想定していない。

 日本の国際観光振興で取り組むべき課題の一つは、訪日外国人を満足させるツアープログラムづくりとツアーガイド人材の育成であろう。

 特に人材育成で障壁となるのは通訳案内士法である。
 通訳案内士は全国どこでも何でも案内できる資質を保証する制度であるが、ここで想定するツアーガイドにそのような資質は全く必要ない。東京も道頓堀も新幹線の乗り方もわからないが、例えば、新世界のことなら、行き交う人は知り合いばかりでネズミの通り道まで知っている。そのような人材が着地型のまち歩きツアーでは力を発揮する。

 観光庁は2006年に都道府県レベルで「地域限定通訳案内士」を認めたが、残念ながら広がりもせず機能もしていない。もう通訳案内士制度とは別に、外国人を対象とした究極の地域限定ツアーガイドを観光協会レベルくらいで認定する制度を創設すべき時期が来ている。その際は、語学力ではなくコミュニケーション力を、知識だけではなくエンターテイメント性も問う姿勢で臨みたい。

著者プロフィール

松村嘉久

松村嘉久新今宮観光インフォメーションセンター代表 阪南大学国際観光学部教授

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