連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル  ~その9.地域ブランドづくりにとって大切な「ネーミング」 ~名前がついていますか、それで魅力が伝わりますか~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

地名の選び方で、ブランド化の本質が見えてくる

 このようなネーミング効果をあげるためには、地域名を表記する場合においても慎重に選ぶ必要があります。例えば上記の例でも示しましたが、高知県という地域は有名ですが、日本人にとっては土佐の方により魅力を感じるようです。

 高知県というと、多くの日本人にとっては坂本龍馬の出生地として知られているでしょう。とても人気がある幕末の志士坂本龍馬、彼の活躍した時代高知県は「土佐」という地名で呼ばれていました。また、高知の民謡よさこい節に「土佐の高知の はりまや橋~で 坊さんかんざし 買うを見た」と歌われるように、土佐という地名は日本人には広く知られています。

 このようなことから、土佐と言う地名に魅力を感じている日本人はとても多いと想像できます。そのため、例えば「高知県のミカン」という名前より「土佐のみかん」と言った方が魅力を感じる人が多いのではないでしょうか。すなわち、高知県のモノやコトの魅力を伝えるには、そのまま「高知の○○」と言うより「土佐の○○」と言った方が、より魅力を感じられるということなのです。みなさんの地域はいかがでしょうか、どの地域呼称を用いるかは重要なポイントです。

 地域ブランド化を進める上で意外と考慮、検討されていないのがこの点です。多くの場合、行政単位の地域名をそのまま利用しようとするのではないでしょうか。加えて、ブランディング推進の事業責任者が行政職員や首長、組合長の場合、自分が住んでいる行政単位の呼称を使うことが当たり前だと思っているようです。しかし、その地域呼称が消費者にとって魅力として伝わるかどうかが重要な判断ポイントです。

 例えば、古くから海苔の産地として知られている有明海、すなわち有明という地名は消費者にとって魅力ある海苔の代名詞として評価されてきました。海苔の地域ブランドとして評価されていると言っても良いでしょう。しかし、福岡県では福岡の有明海で採れた海苔を「福岡のり」として地域団体商標登録をしています。

 名前を有明ではなく福岡に変更したということですが、実際には福岡JFのHPを見ると「福岡有明のり」と表記して販売されています。消費者にとっては、「福岡」という地名より「有明」という地名の方が海苔にとっては魅力を感じる呼称だと認識されているから有明という地名が名前に使われているのでしょう。すなわち、地域名の表記は消費者にとって魅力があるかどうかを良く検討する必要があるということです。

 消費者にとって魅力があるかどうか、第三回で紹介した「はかた地どり®」は魅力の観点から福岡や久留米ではなく「はかた」という地名を採用しています。「はかた地どり」は、実際には旧博多と呼ばれる狭い地域だけで飼われているのではありません。「はかた地どり」の実際の生産地については、福岡県下で肥育された地鶏であると規定されています。「博多」という地名は博多湾に面した地域で、かつては博多津として有名だった狭い地域を指す言葉でしたが、現在では福岡市とその郊外を含む地域を「博多」と呼ぶのが慣例となっています。

 そこで、広域の博多と呼ばれる地域周辺で実際に飼われており、同時に博多の殿様であった黒田藩が鶏の肥育を奨励していた歴史を背景にこの名前を使用しています。すなわち、消費者にとっては「博多」という地名に魅力があり、同時にモノガタリとして博多の歴史が背景にあるコトからこの名前が使われているのです。

 重要なことは、行政単位の名前に固執するのではなく、あくまでも地名の背景に魅力を見い出せるかどうかを見極めて使う必要があるということなのです。

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル  ~その9.地域ブランドづくりにとって大切な「ネーミング」 ~名前がついていますか、それで魅力が伝わりますか~
魅力の観点から福岡や久留米ではなく「はかた」という地名を採用

 地域ブランドにとって一番の人気になっている地名は「京都」です。京都○○という呼称だけで50近くの地域団体商標が登録されていることが、その人気ぶりを示しています。京都と聞いただけで、「きっと古くからの伝統があり、良いモノだろう。あるいは、信頼ができる」と思ってしまいます。

 このようなブランド地域になると、こぞって「京都」を使いたいと考えるのでネーミングで大きな間違いは起きないでしょう。しかし、この地域の中でも「宇治茶」や「西陣織」のように京都と比較しても負けない魅力を持つであろう地域呼称も存在しています。

 ここで注目すべき点は、「地名+モノ」の中に潜む歴史や文化的なモノガタリに魅力を生み出す背景があるということです。言わずと知れた「宇治茶」の歴史や伝統が、多くの消費者にはモノガタリとして認知されており、魅力の背景が「地名+モノ」の裏側にあるのです。

 これからの地域ブランドづくりにおいて重要なことは、このように地域名の裏側にある歴史や文化を背景にブランド戦略をたて、地域名に魅力を込めることが重要だと言うことです。

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