ヒト・コト・モノに触れ、私らしく生きるヒントを見つける旅を仕掛ける水戸抄知さん
人の魅力から地域がもっと好きになる
俵さんと國方さんが用意してくれた地元産のまめ茶と野菜をつかったお茶漬けは、津和野名物‟うずめ飯”がモチーフ。ワサビをその場ですりおろして味わった
津和野町の厨ファミリアでは、立ち上げメンバーである同町教育魅力化コーディネーターの中村さん、俵種苗店店主の俵さん、食を通じ、暮らしの中で受け継がれてきた知恵に焦点をあて地域の人と人をつなぐプロジェクト「たべるを」主宰の國方さんの3人が参加者を迎えた。
ここではU・Iターン者や町民などが週替わりで料理を提供するイベントを実施している。料理は國方さんが監修し、集客のバックアップを厨ファミリアが担うため、誰でもシェフに挑戦できる仕組みとなっている。食を通じて誰もが集まれる場として活用され、酒を楽しむ会やDJイベント、魚のさばき方教室など、今までになかったイベントがたくさん開催されるようになった。
水戸:ここでの暮らしは、モノや環境など、都会よりも足りないことが多いですが、それをマイナスに考えるのではなく、人の力を借りることで、個人のやりたいことが実現できる。安心して失敗できる場所があり、それを受け入れてくれるコミュニティがあることを参加者に知ってもらいたかったんです。
厨ファミリアは地元の高校生と一緒にリノベーションをしてつくられた
その後は堀庭園に移動し、國方さんのもう一つの活動に触れてもらおうと、地元の人と一緒に足湯と餅つき体験をした。國方さんは旧暦の二十四節気七十二候に沿った丁寧な暮らし方を提唱し、地元の人が受け継いできた食の知恵や技を、次世代に継承するための活動に携わっている。
堀庭園では、國方さん発案の‟冬を愉しむ”を行った。かまどに火を起こして湯を沸かしたり、釜で炊いた米を臼と杵で餅にして、手で丸めて火鉢で焼くなど、一から足湯と餅をつくる体験プログラムである。地元の人にとっては参加者が愉しむ姿を目の当たりにできたこと、参加者にとっては丁寧な暮らし方を体験したことが、お互いの心を、ゆるやかに満たしていった。
最初は萩と津和野についてほとんど知らなかった参加者が、人との触れ合いを重ねることで、課題も含めてどんどん好きになっていったという。
杵の重さで自然に振り落とし、タイミング良く合いの手を入れて餅をつく
ぎゅっと握って餅をちぎり、手の中で丸めていく
この日は雪が降りとても寒かったが足湯で身体が温まった
リラックス効果のある柚子やヨモギの葉を入れる
女子旅の成果と今後
女子旅が終わるころには「また行きたい、じゃあいつ行く?」という話が持ち上がり、実際に再訪した人や、1、2年後には移住する可能性のある人もいると水戸さんは話す。
参加者だけでなく、地元の人からも好評で「次はいつやるの?」という声が上がり、現在次の実施に向けて動き出している。
水戸:観光地に行くことが目的の人は、一度行ったところに再訪することは、ほとんどないかもしれませんね。でも今回の女子旅の参加者は、場所ではなく人とつながることに興味がある人たちです。旅を入り口にきっかけをつくってあげれば、次は自分たちでその縁をつなげていこうとします。それに、なにより私自身が、旅で出会ったヒト・コト・モノに羨望なのか愛着なのか、とにかく心を鷲掴みされてしまっているんです。だから、島根や山口にかかわってくれる人を増やすためにも、女子旅を継続してやっていきたいと思っています。
予算や企画にしっかりとかかわってくれる協力者の確保といった課題もあるが、水戸さんは今でも参加者や地元の人へのフォローを重ね、つながりを絶やさないようにしている。
これからの地方は人口減少がどんどん進み、地域間競争が激しくなっていく。地域にどれだけの魅力があるかをアピールして、定住人口や交流人口を増やしていかなければ、将来的には他の地域から取り残されてしまうという危機がある。人とつながる旅はそうしたことを打開する可能性を感じさせる旅だと言える。水戸さんたちの取り組みに今後も注目していきたい。
(インタビュー/文 塩田恵理子)
リンク:Discover萩・津和野 ~旅でつながる旅からはじまる私もよう~
■取材対象者プロフィール
東京都出身。人材会社にて採用コンサルティング業務に従事。その後、NPOふるさと回帰支援センターにて、岡山県及び中四国エリアの移住コーディネーターを経て、2014年よりしまね定住サテライト東京で人材誘致コーディネーターを務める。
現在は、フリーランスとして自治体向けに旅の企画提案のほか、地方に特化した人材誘致などのプロジェクトに携わる。
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