山陰地方初運行「石見レストランバス」に取り組むミツバチたちの挑戦

江上尚合同会社EGAHOUSE&COMPANY、株式会社GPA、株式会社ゴウツゲストハウジーズの3社代表

2018.05.21島根県

事業推進の難所と解決策

山陰地方初運行「石見レストランバス」に取り組むミツバチたちの挑戦
天井は手動で開閉でき、開放的な雰囲気に

 石見レストランバス事業を進める上で難所に感じたのは、3つです。1つめは、山陰地方という土地柄で冬の時期に観光バスを走らせることの物理的な難しさ。2つめは、ペルソナ設定の難しさ。3つめは、プロモーションの難しさ。

 1つめの難所は、事前に予想がついたことではありますが、想定以上に厳しい環境でした。石見地方は海側と山側があります。山側は総じて雪深く、運行期間中はバスが乗り入れることはできません。また、近隣の大商圏である広島県からの集客が思うように進まなかったのは、デスティネーションが海側でありながらも、やはり潜在顧客の冬季の山越えに対する心理的なハードルが高かったからでしょう。また、戦略ミスだったのは写真選びです。透明な開閉型天井が特徴のレストランバスですから、パンフレット・ポスターのメインビジュアルに「天井が開いた状態で乗客がシャンパングラスを持って乾杯している様子の写真」を採用しました。ロケハンするほどの時間がなく写真素材が用意できなかったとはいえ、結果的に寒々しい印象を与えてしまったようです。「暖かくなる春ごろの運行はないのか」と、相当数の問い合わせをいただきました。

 2つめの難所は、誰に乗って欲しいのか、誰が乗るのかが、運行開始まで明確にならなかった点です。通常、新規事業開発をする際には具体的すぎるほどのペルソナを設定して企画を検討していきますが、今回は事前調査、分析を行う時間的、予算的余裕がなく、「想像と期待」でのみペルソナを設定しました。当初のペルソナは、他地域での運行事例を参考に、観光情報・グルメ・食文化に対するアンテナ感度の高い首都圏・広島圏の未婚・年収400万円前後の30~40代女性・2~3人のグループ客でした。しかし、運行を開始してみると、Web広告でターゲットに設定した層に情報はリーチしているものの、全く申し込みに至っていないことがGoogle Analyticsから見て取れました。石見レストランバスに乗るためだけに、首都圏から飛行機に乗ってやって来る、冬の山越えをしてやって来る、というのは非現実的だったようです。結果的に、一般客の主な客層は地元在住の60~70代女性グループ、団体客は金融機関、経済団体、議員団、行政関係者、旅行代理店視察グループなど、地元客が7割、県外客が3割となりました。ただし、地元客が多かったことは、「日常生活の風景でも、切り口を変えれば観光資源になる」ことを再認識させてくれました。普段の食卓にものぼる地元食材を、感動レベルの料理に引き上げてくださった「日本料理僖成(きなり)」の監修が素晴らしかったことは言うまでもありません。

山陰地方初運行「石見レストランバス」に取り組むミツバチたちの挑戦
1階キッチンでまる姫ポークの味噌焼きを仕上げる料理人

 では、なぜ地元在住の客層をつかむことができたのでしょうか。これも当初のプロモーション計画をピボットせざるを得なかったエピソードがあります。地元ローカルメディアに取り上げられたのに申し込みには至らず悩んでいたところ、近所のある女性から「申し込みをしたいけれど、インターネットはようやらん。申込用紙はあるんか、ここで書いて申し込んでもいいけぇ?」と問い合わせを受けました。よくよく話を聞くと、友人らと普段からバスの日帰り旅行に出かけているそう。バスツアーの新聞折込チラシが入ると、友人と相談してハガキで2か月くらい先の開催ツアーを申し込み、1週間ほどで金額が印字された郵便振替用紙が届いて、郵便局で支払いを済ますと申込完了の書面が届きます。申し込みしたことを忘れた頃あいに確認電話が入ると言う仕組みです。こうした生の声を聞き、ターゲットが定まり、プロモーション施策を大きく変更しました。

 具体的には、問い合わせ・予約専用電話回線を開設し、基本的に土日祝日関係なく24時間の電話受付対応をしました。Webマーケティングへの投下コストを絞り、その代わりテレビ・新聞・回覧板などリアルメディアへの投下コストを増やし、パンフレットを作り直して飲食店などへ配布依頼を行いました。そうした努力により、石見レストランバスの存在を知った方が専用回線へ電話をしてこられて、パンフレットを送付し、再度問い合わせを受け詳細を説明し、申し込みに至ります。そしてご請求書を送付し、銀行振込をしていただき、申込完了となるのです。また、一度乗車された方は、総じて満足度が高かったことから、運行期間後半は口コミでのプロモーションが効いてきました。こうした極めてアナログな方法でなんとか乗り切ったというのが、初めての挑戦となる石見レストランバスのリアルです。

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