山陰地方初運行「石見レストランバス」に取り組むミツバチたちの挑戦
島根県浜田市の「浜田マリン大橋」から望む絶景の夕陽
江津市には旅行会社がない?!
島根県江津(ごうつ)市は、島根県西部の石見地方にある人口2.3万人のとても小さな市です。2.3万人というのは、全国に約790ある「市」の中で750番台くらいです。経済産業省とまち・人・しごと創成本部が提供している地域経済分析システム(通称RESAS)を参照すると、データ不足で反映されていない項目のほうが多いまちです。
平成29年度島根県観光動態調査結果速報値によると、県全体の観光入込客述べ数(千人地点)は32,245千人、地域別では出雲大社を擁する東部地域が25,999千人、江津市を含む西部地域(石見地方)が6,060千人、隠岐地域が186千人と、圧倒的に東部地域へ集中していることが分かります。アウトバウンドもインバウンドも、マーケットがないところにいわゆる手数料ビジネスの観光業を営むことは極めて難易度が高いのです。故に、江津市にはこれまで旅行会社がありませんでした。
私は、月刊ソトコトという雑誌で2013年12月に特集されたコミュニティデザインの記事で初めて江津市のことを知りました。学生時代から欧州をバックパッカーで旅するなど未踏の地に足を運ぶことが大好きな私は、なんとなく気になって友人とともに2014年5月、初めて江津市を訪れました。その前週にニューヨークで仕事を終えた私は、滞在先のホテルから千代田区平河町の自宅まで、途中飛行機に乗りながら13時間かけて日本に帰ってきたのですが、新宿発の夜行バスとJR山陰本線を乗り継いでたどり着いた江津駅も同じく13時間でした。「日本なのに13時間もかかるのか!」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。そして、初めて江津市を訪れた時に利用した夜行バス(新宿駅-浜田駅間を結ぶいわみエクスプレス)は、諸事情により2015年9月以降運休、現在では路線廃止となっていることに、なんとも言えない切なさを感じます。
今、私が手がけている事業のグランドデザインは、初訪問時にお世話になった民泊施設オーナーとの出会いがそのアイデアの発端です。産業衰退、18歳人口の流出、高齢化、1次産業の担い手減少、どうしていいのやらと頭を抱えて悩む行政職員となんとかしなくてはと立ち上がる一部の地域住民。NPO法人てごねっと石見がそれら地域課題に立ち向かうためのウェーブを起こそうとしている時期でした。オーナーの計らいで、ただの旅行者なのに、なぜかその夜には地域の若者たちと民泊のラウンジで一緒にお酒を飲みながら、熱く語る時間を過ごしました。知ってしまったら放っておけない性格の私は、それから3、4か月に一度江津市に遊びに行くようになりました。その理由は簡単です。江津市で出会う住民がとても魅力的で、ワクワクしたからです。
2015年12月、私は江津市主催ビジネスプランコンテスト(通称Go-con)に「江ノ川流域に8つのゲストハウスを創る」というプランで出場する機会を得ました。20~30代の情報発信力が比較的高く、かつ人との出会いを目的とするソーシャルツアーへの関心度が高い観光客をターゲットとした場合、彼らが泊まりたい場所がほぼゼロのこの土地にゲストハウスを作れば、外貨獲得という意味で地域経済への波及効果が高く、江津市の認知度向上にも役立つのではないかと考えました。
しかし、あろうことか当時は移住なんて全く考えていなかった東京在住のサラリーマンである私が大賞を受賞してしまったのです。これには少々焦りました。受賞後、江津市役所の中川哉さん率いる地域づくり・定住移住促進を担当する政策企画課地域振興室の皆さんが、粘り強く私とのコミュニケーションを続けてくださり、「江津市にはあなたが必要だから、来てください」という言葉が私の承認欲求を満たしたのです。2016年5月、都会暮らしに終止符を打ち、縁もゆかりもない未踏の地「しまね」に居を移しました。
サラリーマン時代は、主に「グローバル人材育成領域」の業界で17年間のキャリアを重ね、営業や広報、新規事業開発などを担当していました。今、手がけている事業はどれも未経験ですが、2013年から通っていたグロービス経営大学院での学びが極めて体系的で実践的であったことから、不安もなく3社を同時起業し、現在は4つの事業(旅行業・ゲストハウス運営事業・農業・ビジネスコンサルティング)を展開しています。また、これまで培ってきた人脈だけでなく、ここ江津市で出会った多くの仲間に恵まれたことも幸運としか言いようがありません。大学院では、企業におけるイノベーション創出プロセスについて研究していましたが、地方創生・地域活性化の文脈においてもハーバード・ビジネススクールのリンダ・ヒル教授が提唱されている「Collective Genius(集合天才)型リーダー」の育成と、最近話題になっているフレデリック・ラルー氏がまとめた「Teal組織」の構築が活かせるのではないかと理論を実践に移すべく、奮闘する毎日です。
Go-conで大賞を受賞した江上さん(左)
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