親子2世代で取り組む酒造と食の民宿経営—地域から「地域の仕事」を変える—

高千穂ムラたび
家族とスタッフ 写真前列左から、佐伯勝彦、飯干真弓、飯干淳志、佐伯絵里子のみなさん

 高千穂町は天孫降臨の地として、宮崎県の大きな観光資源になっている。人気の高千穂峡は、12万年前と9万年前に阿蘇山の噴火で流れ出た火砕流が作り上げた地形で、神秘的なムード漂う地だ。天孫降臨伝説を神楽として毎夜上演する高千穂神社や天岩戸神社など天孫降臨にちなむ多くの観光スポットも散在する。しかし、山間地であるための悩みも抱えている。
 そんな高千穂町の中心地からまた奥に入った秋元地区に、酒造と民宿を中心とした「株式会社高千穂ムラたび」はある。山の奥という条件を利点として活かす事業について、創業者の娘、佐伯絵里子さんにお話しをうかがった。

 「高千穂ムラたび」の仕事

高千穂ムラたび
山間に建つ「ムラたび」の施設

 創業者は飯干淳志さん。高千穂町役場に長く勤務し、定年を迎える少し前にこの会社を設立した。主な事業は前述のとおり酒造業と民宿経営で、親子2世代の家族を中心に、現在14人のスタッフで運営している。

 高千穂は観光資源に恵まれているとはいえ、過疎も進む町である。約30年前、淳志さんはその状況に胸を痛め、いずれはその流れを食い止めたいとの願いを持って町役場に勤務した。役場で地域を支える仕事をしながら、地域づくりのための勉強と人脈づくりを行ってきたのである。

 その熱い思いがかない、定年退職少し前に独立し、起業したのがこの「高千穂ムラたび」である。

 高千穂には旨い米も水もあるのに日本酒メーカーがなく、地域産品の中核を担えるはずの「地元の酒」がないことに着目し、淳志さんは役場職員時代からどぶろく特区の申請に奔走してきた。2009年に役場を退職し起業した後、妻の真弓さん、娘の絵里子さん、その夫となる佐伯勝彦さんと、どぶろく造りと民宿経営を開始した。

 淳志さんは主に会社経営と外務関係に、民宿運営は妻の真弓さん、そして酒造は若い娘夫婦に任せてのスタートとなった。

 もともと秋元地区は高千穂町の中でも一番の奥、ここから先に住居はないという。しかし、秋元神社には独特の神楽が伝承され、それを見に愛好家がやってくる密かな人気スポットでもあった。そんな地に民宿を営み人気を得ているのだ。高千穂町の中心街からさらに30分ほど車を走らせ、ガードレールのない一本道を抜けるとその先に集落があり、その奥の方に民宿「まろうど」が、そしてその奥に「まろうど酒造」もあった。

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