親子2世代で取り組む酒造と食の民宿経営—地域から「地域の仕事」を変える—

若い世代の課題

 そんな絵里子さんはこの地域を見て、自分が高校生だったころと状況はずいぶん変わってきているという。

絵里子:私の同じ地域の同級生は中学のころまでの2人だけなのですが、1人は町内で働き、もう1人も近隣の延岡市にいます。近隣に住む高校の同級生もたくさん地元にもどってきています。私がまだ学生だったころ、地域にもどってくる人の評価はあまり高くなかったと思います。私などは親に引きずられて戻ってきたところもあるのですが。今は自分の意思で戻ってくる人が増えたようです。
 山間地であっても情報社会化は進み、流通も整ってきて、都市部の情報過多な社会よりずっと住みやすいと思っています。戻ってきた友人も、地域でパン店や美容院など、思い思いの職業についています。私たち同世代では地域に対する価値評価そのものが変わってきています。

 しかし、高千穂が山奥の地であることに変わりはない。そんな中で商品をつくり販売し、民宿に人を集めることができるのはなぜなのか。ただ漫然と営んでいて集客できるはずもない。

絵里子:高千穂町は観光に力を入れているため、町や観光協会のウェブサイトを見て宿泊施設にアクセスしてくるお客さまが多いのです。そこで最終的に選んでいただく基準がなにかといえば、「自社のウェブサイトがしっかりしていること」につきることがわかりました。宿の様子、商品の正しい情報提供が重要です。また、働く人の素顔が見えることも安心感を作り出します。交通なども含めて、山奥の宿まで安心してたどり着ける情報が重要なのです。ウェブサイトがしっかりしていれば対応も商品もしっかりしている、そういう評価につながるのだと思います。

お客さまが求めているものは「安心できる情報」なのである。宿泊施設も、飲食物も、その内容が真正なものであることは当然であるが、ウェブサイトを見ていく途中で不安や心配感が出てくるようでは申し込みにまで至らない。購買行動のなかで、最後に予約や購入ボタンをクリックするまで、お客さまが安心して先に進められること、そう思える内容をしっかり伝え続けることが重要だという。

 また、既存のメリットである秋元神社の神楽に頼らず、地域の弱点と思われていた条件を強みに変え、お客さまの安心感をつなぎとめることで、新しい仕事の在り方を見つけていった。

絵里子:この地域は秋元神社が有名で、以前から神社に来るために足を運ぶ人がいました。しかし、民宿を始めてみると、先に「まろうど」に宿泊を決めて来てくれ、私たちが紹介してはじめて秋元神社の神楽を知る人がほとんど。逆に、神社に行った帰りに看板を見て「まろうど」にお立ち寄りになる方もいます。お互いに相乗効果を得られていると思います。

 自社商品を販売するにあたっては、「地域商品」の扱いではなく、「一般商品」の扱いの中で生きていく道を選んでいる。大きな会社に負けない、販売店の普通の棚に他の商品と同列に並べられ、そこで選んでもらえる商品づくりに取り組んでいる。

絵里子:私たちは今、甘酒を植物性乳酸菌で発酵させたノンアルコール飲料「ちほまろ」という商品の販売に力を入れています。今の商品販売は「いいものを作れば売れる」というほど甘くありません。甘酒は少し前に大ブームになりましたが、そうすると製造業者が増え、あっという間に飽和状態になってしまいました。以前は、いいものは小さな地域産業がつくり、大手は大量生産中心で高品質のものはできないと思われていましたが、今は大手会社もしっかりといいものを作ってきます。その程度の差別化ではとてもやっていけません。私たちはもともとある糀に植物性の乳酸菌をうまく合わせ、ダブル効果を作り出すことで差別化をはかっているのです。

高千穂ムラたび
まろうど酒蔵最初の製品である「千穂まいり」(写真左)と、甘酒を植物性乳酸菌で発酵させたノンアルコール飲料「ちほまろ」

 まろうど酒造の最初の製品は「御神水源どぶろく 千穂まいり」で、父親の淳志さんが計画の当初から構想してきたものが絵里子さんたちの手で形となった。そして、絵里子さんたちが自ら開発したものが「ちほまろ」である。糀と乳酸菌のW発酵で、アルコールの飲めない子どもや健康志向の強い人たちへ向けた商品としてつくられている。発酵文化をより広く提供できる商品開発に進もうとしていることがうかがえる。

 道の駅や地域の物産館などで売れる商品ではなく、一般の販売店で売れるようにしたい。そのために大手流通業との提携も行っている。今はまだ小さな取り組みではあるが、大きな志の取り組みであり、そういう商品を開発する気概に溢れている。

(インタビュー・文/太田正人)

取材対象者プロフィール

高千穂ムラたび

高千穂ムラたび

高千穂町で生まれ育った飯干淳志さんが、2009年にそれまで勤務した町役場を早期退職し、56歳で事業を開始した。妻真弓さん、娘の佐伯絵里子さん、その夫の勝彦さんらと、民宿経営、どぶろくや植物性乳酸菌入り甘酒などの地域に密着した特産品づくりを行う。

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