共有する新しい経済の仕組み「シェアリングエコノミー」 地域課題の解決に導く可能性について一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 佐別当隆志氏に聞く
シェアリングエコノミー協会がシェアサービスの活用で地域課題の解決に取り組む自治体を「シェアリングシティ」とし、15の自治体を認定した
場所、モノ、乗り物などの遊休資産を、インターネット上のプラットフォームを介して、個人間でシェア(貸借や売買など)する新しい経済の仕組みを「シェアリングエコノミー」という。その代表的なサービスが空き部屋を提供する「Airbnb」や自動車を配車する「Uber」などである。欧米を中心に広がったこのシステムを日本でも普及・発展させようと2016年1月に設立されたのが一般社団法人シェアリングエコノミー協会だ。 シェアリングエコノミー伝道師の佐別当隆志(さべっとう・たかし)さんは、インバウンド促進や地方創生につなげながら、プライベートではシェアハウス「Miraie」を運営し、シェアリング生活を実践している。 佐別当さんにシェアリングエコノミーの仕組みと、観光に活用している事例や可能性について話をうかがった。
シェアリングエコノミーに対する認識を変えたい
――最近になってシェアリングエコノミー協会が設立されたのはなぜですか
佐別当 :日本でも少しずつ広がりを見せているシェアリングエコノミーですが、その中でも近年、「民泊やライドシェア」の問題が大きく報道されるようになりました。
特に民泊では、大家の許可なくマンションの一室で営業を始めたり、ゲストが深夜まで騒いだり、ごみ捨てのルールが分からずに他の住民に迷惑をかけるといったことのほとんどが家主不在型によるものです。 地域から歓迎され観光のプラスになっている家主居住型の事業者と収益を重視した家主不在型の事業者がひとくくりにされる状況に危機を感じました。
このままだとシェアリングエコノミーに対する誤解を生んだまま規制緩和されずに禁止されてしまうかもしれない。また日本にはさまざまな素晴らしいシェアサービスが存在しているにも関わらず認知が非常に低い。 そこで、シェア企業6社と連携し、シェアリングエコノミーの普及・発展を目的にした「シェアリングエコノミー協会」を2016年1月に設立しました。
――どのような活動をされているのでしょうか
佐別当:シェアリングエコノミーに対する理解を深めてもらうために、まずは自民党IT戦略特命委員会で政治家や官僚と何度も勉強会をさせていただきました。
その上で内閣官房のIT総合戦略室でシェアリングエコノミー検討会議を設置いただき、有識者と意見交換を重ねてきました。またシェアリング業界を客観的な立場でメディアに情報発信しています。
そうした働きかけにより、昨年と今年の日本の成長戦略の一つにシェアリングエコノミー推進が掲げられ、総務省、環境省、経済産業省などでさまざまな施策が行われるようになりました。
シェアリングエコノミーで共助による課題解決を目指す
――シェアリングエコノミーは他にどのようなサービスがありますか
佐別当:シェアリングエコノミーは主に5つに分類されます。「空間」「モノ」「乗り物」「お金」「人・スキル」です。海外のサービスばかりでなく、最近では日本のも見られるようになりました。
①空間 駐車場や会議室、部屋など場所をシェアする ●Airbnb、SPACEMARKETなど
②モノ ファッションやレンタルサービスなどモノをシェアする ●mercari、airClosetなど
③乗り物 ライドシェアやカーシェアなど移動手段をシェアする ●Uber、nottecoなど
④お金 クラウドファンディングなどお金をシェアする ●READY FOR? 、Makuakeなど
⑤人・スキル 家事、育児、知識など人が持つ能力や技術をシェアする ●ココナラ、TABICAなど
――シェアリングエコノミーを観光活用している地域の事例を教えてください
佐別当:一部ですが3つご紹介します。
1つ目は長崎県島原市です。市は球場から会議室までユニークな場所を貸し借りするSPACEMARKETと提携し、島原城の敷地でコスプレイベントやグランピングを開催しています。市が所有するさまざまな公共施設を有効活用することで、地域活性化を目指す取り組みを推進しています。
2つ目は岩手県釜石市です。自治体で初めてAirbnbと提携し、民泊を推進しています。2019年にはラグビーワールドカップが開催されますが、国内外からの観光客を受け入れる宿泊施設が圧倒的に不足しています。これから新たに旅館やホテルを建設するには莫大な資金と時間が必要です。宿泊場所の提供者にAirbnbへの登録を促し、住まいを宿泊できるスペースに変えていく取り組みを展開しています。
3つ目は自治体ではありませんが、外国人観光客が増えている岐阜県高山市です。写経や座禅など日本文化の体験と宿泊ができる施設「Temple Hotel 高山善光寺」が今年7月にオープンしました。
これはお寺スティというサービスを展開しているシェアウイングが、後継者不足で廃業予定だったお寺をリノベーションし、人が泊まれる仕組みを提供することで、お寺の新しい活用につながりました。ここでは宿泊者の食事を提供せず、地域の飲食店を利用してもらうことで、地域活性化を目指しています。
3つの事例のように、魅力ある資源を自治体や企業だけで抱え込むのではなく、住民やシェア企業などの力を借りる「共助」によって、課題解決を目指すという取り組みが特に地方で増えています。
コスプレイヤーから大きな反響があった島原城での撮影会
古い家具や建具を活かして、内装と外装をリノベーションしたTemple Hotel 高山善光寺
――都市よりも地方が多いのは意外ですね
佐別当:海外の場合は、人口が集中した都市で、不足している公共サービスを補うためのシェアリングエコノミーが普及しています。
しかし、日本の場合は、少子高齢化で空き家が増えているといった課題意識の高い地域からシェアリングエコノミーの活用についての相談を受けることが多く、60を超える自治体から相談が寄せられています。
また、実際に導入する地域も増えています。2017年11月には15自治体がシェアリングエコノミーを推進する「シェアリングシティ」を宣言しました。政府の成長戦略では、今年度末までにはそのモデルケースを30自治体へ広げることを目指しています。
――さまざまなシェアリングサービスが展開されていますが、事故やトラブルなどが心配で利用を戸惑ってしまいます
佐別当:個人間のやり取りなので、リスクが生じやすいのは確かです。
そこで、利用者が安心で安全なサービスを提供する企業を選択できるための認証制度を2017年7月からスタートさせました。現在、15サービスに認証マークが付与されています。
①送迎や託児を親同士で頼りあう「子育てシェア」を運営する株式会社AsMama
②家事代行マッチングサービス「タスカジ」を運営する株式会社タスカジ
③クラウドドソーシング「Lancers」を運営するランサーズ株式会社
④自動車を配車するサービス「Uber」を運営するUber Japan株式会社
⑤球場から会議室までユニークな場所を貸し借りする「SPACEMARKET」を運営する株式会社SPACEMARKET
⑥地域体験予約サイト「TABICA」を運営する株式会社ガイアックス
⑦ご近所助け合いアプリ「ANYTIMES」を運営する株式会社エニタイムズ
⑧知識・スキル・経験を売り買いできるフリーマーケット「ココナラ」を運営する株式会社ココナラ
⑨iPhone出張修理・マッチングプラットフォーム「iRepairs Lab」を運営するLife Support Lab株式会社
⑩国内最大級の貸し会議室予約サイト「Spacee」を運営する株式会社スペイシー
⑪訪問介護・家事・生活支援マッチングプラットフォーム「CrowdCare」を運営する株式会社クラウドケア
⑫日本最大級のクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を運営する株式会社クラウドワークス
⑬国内最大の中長距離ライドシェアサービス「notteco」を運営する株式会社notteco
⑭家事サービスを必要とする人と家事サポーターをつなぐ「かじなび」を運営するセントワークス株式会社
⑮料理の注文から決済までをワンストップで行なえるサービス「UberEATS」を運営するUber Japan株式会社
サービスを提供する企業が事故やトラブルなどに対応できるよう、利用者に本人確認を行う、個人情報保護を整備する、万一の事故に備えて保険に加入するなど一定の責任を負担することで、安全性向上に努めています。利用者はサービスを選ぶときの参考になるのではないでしょうか。
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