食文化体験は訪日観光の新たなトレンドに ――外国人向け料理教室主宰・秋山亜裕子さんインタビュー
コンテンツの面白さ、教育的価値が大切
―最近は、有名な観光地以外でも、外国人観光客に料理を教える民泊プログラムが増えているようです。料理教室をする上で気を付けるべきことはなんでしょうか。
秋山:アレルギーのある食材や宗教的な食事制限に関しては必ず事前に尋ねています。
ハラルの場合は、アルコールが添加されていないしょうゆを使ったり、自然発酵の味噌にしたり、ハラル印がついた食材を買うようにしています。飲み物についても、一度アルコールを注いだグラスに別の飲み物を入れて出すことはできないので、そのときは紙コップを使用しています。
アレルギーについては、山芋など今まで食べたことがない食材でアレルギーを引き起こしてしまう事態も起こりうるので、もしそうなったときにすぐに連れていける病院が近くにあるかなどを必ず調べるようにしています。
この日は参加者の一人がイスラム教徒だったため、ハラルの食材や調味料を使って寿司を作ってもらった
―英語でうまくコミュニケーションをとるために大切なことはなんでしょうか。
秋山:英語に自信がない場合は、一つのメニューに特化した方が教えやすいと思います。
あれもこれも教えようとすると表現が追い付かなくなってしまいます。一つのメニューに特化して、説明内容を一通り覚えて回数を重ねていけば、必ず上達していきます。
また、説明が長くなるときはポイントごとに英語を使った動画で説明するのもいいと思います。
でも、語学はあくまでも補助的な部分で、一番大切なのはコンテンツの面白さだと思います。その体験が非常にユニークで、教育的価値があるものだったら、語学の壁を超えていきます。日本人が体験しても面白いと思えるものなら、外国人が体験してもきっと面白いと思うはずです。
地方のまちなら、例えば笹寿司をつくるのに、笹をとってくるところから一緒に体験することもできます。あるいは、しょうゆ蔵や酒蔵でどうつくられているかを見学してから、その調味料を使うのも面白いですね。
東京ではできない体験がいくつもあると思うので、そういった体験をぜひ企画してほしいと思います。
色鮮やかなお寿司を銀皿に
―訪日外国人客の増加で、外国人向け料理教室自体も増えてきました。これからどんなことに挑戦していきたいですか。
秋山:私が始めたころは東京に3、4軒程度しかなかった外国人向け料理教室も、今では100軒ほどに増えました。家庭で開く教室や観光ツアー向けの教室など、スタイルも多様化しています。
「ブッタベーリズ クッキングスクール 東京」では、アメリカのグーグルやヤフーなどから企業研修の一環で料理教室を依頼されています。毎年、カリフォルニアにある本社から20代の若いエンジニア20~30人がやってきて、広いキッチンのある部屋を借りてフル回転しながら料理を教えています。ただの飲み会を開くのではなく、体験を通して食文化を学ぶことが海外ではトレンドになっているようです。
日本人留学生も、海外で和食を教えたり、一緒につくったりすれば、ホストファミリーや学校の友人とも仲良くなれると思います。
若い世代には、ぜひ和食というツールを持って海外に飛び出し、人間関係を深めてほしいと思います。
作ったお寿司を前に参加者から笑みがこぼれる
(取材・文/城市奈那、撮影/太田正人)
■取材対象者プロフィール
高校時代に英国留学を経て、フェリス女学院大学大学院博士前期課程修了。英語教員として教鞭をとるかたわら、2011年に当校を開講。2016年開成学園を退職し、国内外で精力的に活動を本格化。Google USA, Yahoo USA, Airbnbなど海外企業からのteam buildingのオファーからタイアップ事業を多数手がける。近年はオリンピックや観光誘致に関する地方自治体などの外国人観光客誘致のアドバイザーなどもつとめる。
江戸懐石近茶流修了、日本寿司インストラクター協会認定インストラクター、国際利き酒師免許、教員専修免許(英語)など資格多数。著書に『英語でレッスン!外国人に教える和食の基本』(IBCパブリッシング、2016年)
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