坂で楽しむ観光地

沢村耕太坂ミシュラン管理人

2017.06.12

 後半は関ヶ原を越えて関西に参りましょう。

 まずは

串カツで真田丸談義 大阪市天王寺区・上町台地

 東京都心部と比べると、大阪市中心部は基本的に平らで坂があまりありません。淀川が運んだ砂でできた土地だからだそうです。例外的に一カ所だけこんもりと山になっているところがあります。北は大阪城から天王寺駅周辺を経て、南の住吉大社にまで伸びている「上町台地」です。NHK大河ドラマ『真田丸』の舞台となった場所で、『ブラタモリ』でも紹介されていました。

 天王寺駅の南口には高さ300m、日本一高いビル「あべのハルカス」がありますが、日本一に行きたいのをぐっとこらえて北口から出ると、何百年も続くお寺や神社が並ぶ上町台地エリアがあります。

 あまり有名な観光地ではありませんが、真田幸村(信繁)の戦死跡の碑がある「安居神社」、大阪市唯一とも言われる「玉出の滝」がある「清水寺」など、シブい見どころがいっぱいです。坂好きの方は「上町の七坂」(天王寺の七坂)と呼ばれる7つの坂をぜひ巡ってください。

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上町台地 (引用:大和川付替え300周年記念事業実行委員会ホームページ

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真田幸村(信繁)の戦死跡の碑

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大阪市内唯一の天然の滝である「玉出の滝」

 大阪と言えばお好み焼き、たこ焼きと並んで「串カツ」が有名ですね。串カツで有名な「新世界」があるのは天王寺駅の隣の新今宮駅です。くれぐれも「二度づけ」はしないでください。

 大阪と奈良の県境に坂好きの聖地があります。傾斜が日本一急だと言われている暗峠(くらがりとうげ)です。(21度・38%)。酷道(ひどい国道がこう呼ばれています)としても有名です。昔は皆さんこの峠を越えて行き来していましたが、今ではトンネルができてすごく楽になったそうです。

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暗峠は慣れない人が通ると転倒する恐れがある

 マニアックな話は置いておき、さらに西へ進んで広島へ参りましょう。

聖地巡礼 広島県呉市・海軍病院の坂

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東京都豊島区の富士見坂

「聖地巡礼」という言葉がロケ地巡りという意味になるとはイエスも想像しなかったことでしょう。2016年に大ヒットした映画『君の名は』の聖地の一つ、「須賀神社」は東京都新宿区の坂(というより階段)です。『時をかける少女』(細田守さん監督のアニメの方)でも、東京都豊島区の「富士見坂」が描かれています。スタジオジブリの『耳をすませば』の舞台は東京郊外の聖蹟桜ヶ丘です。映画監督はどうして坂で撮影したがるのでしょう。立体感のある画が撮れるからでしょうか。

 少し脱線しましたが、昨年大ヒットしてロングラン上映が続いている映画がもう一つあります。それは『この世界の片隅に』です。原爆投下前後の広島で、日常を素朴に力強く生きる女性を描いた作品です。女優の「のん」さんがヒロイン「すず」の声優をされたことでも話題になりました。原作はこうの史代さんの漫画です。

 この作品の舞台となったのが広島県呉市、広島市の隣の市です。かつて海軍工廠があり、戦艦大和が製造された場所でもあります。原爆投下の最初の候補地に呉市も入っていたそうで、物語でもひどい空襲を受けるシーンが登場します。

 また、すずが義理のお父さんのお見舞いで海軍病院を訪れるときに登場する階段は、今も呉医療センターの階段として残されています。ほかのシーンもほぼ同じ形で現存されている場所がたくさんあるようです(この世界の片隅に 聖地巡礼 ロケ地ガイド)。原作の漫画家さんのデッサン力には驚嘆するばかりです。

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大和ミュージアムに展示されている10分の1サイズの戦艦大和

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呉医療センターに続く階段

 呉へは、厳島神社のある宮島から船で行くこともできます。広島観光から少しエクスカーションされてはいかがでしょうか。

 広島と言えば尾道も坂で有名です。尾道は金沢と同じく歴史情緒豊かなまちで、大林宣彦監督の元祖『時をかける少女』の舞台となった場所でもあります。やはり映画監督は坂が好きですね。「千光寺新道」という海を見下ろす坂が観光名所となっています。

 尾道は広島から新幹線(こだま)でも1時間以上かかるので、旅行プランを考える際は要注意です。日程に余裕がある方は、「しまなみ海道」を通って尾道から愛媛・今治までをサイクリングしてはいかがでしょうか。

 さて、いよいよ最後の九州です。トリは坂の街、長崎です。

坂といえばここ 長崎の坂いろいろ

 長崎には坂がありすぎてどれを紹介したらよいか迷ってしまいます。長崎出身の元同僚が、「長崎には自転車に乗れない人が多い」と話していました。なぜかと言いますと、坂が多くて自転車に乗る機会がないからだそうです。電動アシストが普及した今はどうなんでしょうか。

 まずは長崎市内、大浦天主堂に参りましょう。天主堂は1865年に建立された日本最古のキリスト教建築物で、周りにはいくつかの「オランダ坂」があります。天主堂に続く坂が「下がり松オランダ坂」です。

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日本最古のキリスト教建築物「大浦天主堂」

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下がり松オランダ坂

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変電所の坂 坂の上に飽の浦変電所があるため、地元からはこう呼ばれている

 天主堂の近くにはグラバー園があり、ここに全国でも珍しい坂道エレベーター「グラバースカイロード」があります。北に1kmほど移動すれば「軍艦島上陸ツアー」の乗り場があります。昔は船で周りから見るだけでしたが、現在は上陸できるようになりました。

 ただし、飲酒・喫煙は禁止、ハイヒール・サンダルも不可です。これらを守ることを誓約書に署名して提出する必要があります。

 長崎には坂好きのもう一つの聖地があります。大浦天主堂から長崎湾を隔てた対岸の飽の浦町にあるのが「変電所の坂」です。なぜ聖地かと言いますと、都市部にあって車が通れる坂として日本一急だと言われているからです(18度・32%)。バス通りから一本路地に入ると突如現れる急坂は、「すげー」としか言いようのない迫力です。

 アニメで大人気の『弱虫ペダル』、作者の渡辺航さんは長崎県諫早市のご出身で、あの激坂の上にある「総北高校」は坂の多い長崎からヒントを得たのかもしれないですね。ここもある意味聖地かもしれません。

 マニアックな話は置いておき、同じ長崎県の平戸市に参りましょう。長崎市は長崎県の中でも南の端にありますが、平戸は逆の北の端で平戸島という島にあります。(平戸市には一部九州本土が含まれます)。

 キリスト教伝来の地、平戸には「聖フランシスコ・ザビエル記念教会」があります。この教会へと続く石畳の坂道が「寺院と教会の見える坂道」と呼ばれています。なぜかと言いますと、坂下から見上げると日本のお寺とキリスト教の教会が融合した珍しい景観を味わうことができるからです。

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寺院と教会の見える坂道 写真提供:一般社団法人長崎県観光連盟(写真撮影・掲載に当たっては大司教区の許可をいただいています)

 また、平戸には平戸チャンポンという名物グルメがあり、長崎市内のチャンポンと食べ比べてみても楽しいかもしれませんね。

 平戸市と長崎市との間には佐世保市があり、佐世保バーガーを頬張りながらハウステンボスに行くという手もあります。

 以上、北は北海道、南は九州まで、坂を入り口にした観光ガイドでした。昔から人が暮らしてきたまちには必ずと言っていいほど坂があります。普段の生活や旅行先で坂を見つけたら、ちょっと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。もちろん、ご紹介した観光地には坂道以外にたくさんの魅力がありますので、坂好きでない方にもぜひ足を運んでいただければ幸いです。

リンク:坂ミシュラン

著者プロフィール

沢村耕太

沢村耕太坂ミシュラン管理人

東京で研究職として働くかたわら、坂の情報サイト「坂ミシュラン」を2003年から運営。東京、大阪、長崎など国内の坂からリスボンなど海外の坂まで、傾斜、長さ、由緒、美観の4つのジャンルで評価している。街中にある急坂、ひっそり坂をこよなく愛する。『東京散歩学』(洋泉社MOOK、2006年)の坂道部門を担当。

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