アウトドアコンテンツの可能性 神津島の女性ツアーを事例に
「釣り」に「登山」を組み合わせる
天上山にある「ハート型の不動池」は女性に人気
神津島の観光客は年々減少を続けており、最盛期である1985年の約86,000人から、2010年は約34,000 人となった。観光客の多くは「釣り」と「海水浴」が目的である。神津島では、十分に認知されていない天上山登山を観光資源としてPRしていくことで、「海と山を楽しめる島」といった新しい観光のあり方を構想している。
他にも伊豆半島、紀伊半島など、かつて釣り客でにぎわった観光地域には、見晴らしのいい、独特の自然環境下にある山が多い。現在、女性を中心とした登山客が訪れている。登山目的の来訪者に対して「釣り」や他のアウトドアコンテンツを手ぶらで簡単に楽しめるような受け入れの整備をすれば、滞在時間、日数の長期化につながる可能性がある。
多彩な組み合わせと負担軽減でさらなる発展へ
夜はバーベキューで女子懇談会
男性の釣り人は目的に向かってストイックに探求する傾向がある。石鯛を専門的に狙う釣り人は限られた費用、時間の全てを石鯛釣りに費やす。一方、女性は、専ら釣りだけを楽しむのではなく、グルメや温泉、宿泊あるいは他のコンテンツを連続して楽しもうとする傾向がある。
つまり、男性の釣り客は釣り場での消費が限られるのに対し、女性客は満足度に比して、地域での消費拡大が期待できる。
本ツアーの参加者アンケートからは、「たくさんの体験ができた」、「島の人との交流を楽しめた」といった、釣りや登山以外の行程への関心もうかがえた。
本ツアーでは、釣りと登山のどちらか片方の経験者に未経験部分の魅力を提供する側面があった。他にも潮干狩りやシュノーケリング、バードウッチングなど複数のアウトドアコンテンツの組み合わせにより参加者の満足度を上げることができる。
また、女性のガイドや添乗員を希望する声もあった。野外活動での携帯品や衛生面など女性目線のケアが必要となる。
野外活動での携帯品や衛生面など女性目線のケアも必要となる
堅調な女性登山市場を見据えると、釣り関係者や受け入れ地域側にとって、登山を含めた融合型旅行商品の催行は相乗効果が期待できる。情報発信の面でも、従来の釣り雑誌や釣具店などに限られていた広報活動が、登山関係の媒体や女性一般誌など他分野のチャンネルを活用できる。
受け入れ地域側では旅行者の準備と費用の負担軽減のため、コンテンツごとのレンタル用品の充実、幅広い分野で対応が可能な女性ガイドの育成、アウトドアメーカーではウエア、靴などの、幅広い目的で利用できる商品の供給などが今後の発展要因として考えられる。
※本稿は、筆者が日本地理学会2013年秋期学術大会(2013年9月28日福島大学)にて発表した「釣りと登山を組み合わせた女性限定旅行商品の可能性~神津島で催行された女性ツアーを事例として~」を改稿したものである。
(協力:東海汽船株式会社、グローブライド株式会社)
■著者プロフィール
青森県生まれ。首都大学東京都市環境科学研究科前期博士課程修了。
世界中で山登りと魚釣りをしている。魚釣りと環境教育を研究中。
将来の夢は「釣りバカ日誌」の浜崎伝助になること。
尊敬する「競走馬」はライスシャワー。
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