音楽フェスと観光とインターネット

永井純一神戸山手大学現代社会学部講師

2015.08.17

地域を素通りするツーリスト?

グラストンベリー・フェスティバル(イギリス)
グラストンベリー・フェスティバル(イギリス)

 長時間ないしは複数日にわたって開催されるフェスは、移動や宿泊を伴うことが多い。これまで日本では、地方在住者が、コンサートが行われる都市部へ行くというケースを除けば音楽とツーリズムの結びつきはあまり一般的ではなかった。しかし今日のフェスはこれとは逆の動きが目立っている。すなわち音楽をきっかけにした都市部から地方への移動だ。そうしたなかで、地方自治体や行政が協力する例も少なくない。いわばまちおこしとしてフェスが注目されているのである。

 こうした傾向は日本に限った話ではない。イギリスをはじめとするヨーロッパでは1990年代から、オーストラリアやアメリカでも2000年前後からフェスは増えはじめ、近年では社会学や経済学、観光学などのアカデミズムやシンクタンクによる精力的な調査研究がなされている。

 イギリスの音楽業界団体UK MUSICの報告によると、近年、居住地域外のコンサートやフェスに参加する音楽ツーリストは増加傾向にある。2014年は海外からの参加者54万6,000人を含む950万人で、全入場者に占める割合は46%に上り、その経済効果は31億ポンドだという。なおフェスに限れば、その割合と一人あたりの平均支出額が高くなることが指摘されている(注4)。

 しかし、フェスが地域にもたらす経済効果については、疑問の声もしばしば聴かれる。というのは、各大型フェスが用意しているオフィシャルツアーのほとんどがスケルトン型のフリープランだからである。

 琉球銀行とりゅうぎん総合研究所は、2014年に沖縄県宮古島で開催された《宮古アイランドロックフェスティバル》の経済効果を3億8,600万円と試算しているが、その内訳の1/3を運輸と宿泊が占めている(注5)。もっとも同フェスには地域外からの参加者が多く(6,500人中、県外からの参加者2,400人、島外の沖縄からの参加者900人)、フェスティバルの開催が1日のみということもあって、お土産物などの製造業と飲食店がそれぞれ12%と11%と善戦しているのだが、他のフェスでは週末を会場で過ごすだけで帰ってしまうという参加者も少なくない。

「りゅうぎん調査」2014年9月号をもとに筆者作成
「りゅうぎん調査」2014年9月号をもとに筆者作成

 もちろん会場内でも名物料理は食べることができるし、気候や風景からその土地をある程度感じることはできる。ただし、地域振興やまちおこしといった観点からすると、フェスを会場内で完結させないための工夫が必要となるだろう。ある参加者は「毎年参加しているフェスがあるにもかかわらず、バスツアーを利用し会場と居住地域間を直行直帰しているため、会場がどこにあるのかよくわからない」と告白した。いわば、フェス会場内と会場外の地域という点と点が結びついていないのである。

(注4)UK MUSIC 2015 Wish You Were Here 2015 Music Tourism’s Contribution To The UK Economy 
(注5)「りゅうぎん調査」2014年9月号、琉球銀行・りゅうぎん総合研究所

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